【読書記録】上遠野浩平「酸素は鏡に映らない」

ミステリーランドの12回目配本の、カドノさん。タイトルが面白そうで本棚から引っ張り出したら絵がとても好みだった!という、まるで子供のような気に入り方をして手に取った本でした。笑(ちなみに、イラストレーターさんは、toi8さん。ぺたぺたっとした感じの塗りですが、黒鉛がにじんだような描写が落ち着いた色にあっていて、好みの画風でした。カラーは表紙と裏表紙のみですが、中にも挿絵があるミステリーランドならではの心配りにいつもながら乾杯。そういえば、結構有名なゲームキャラクタデザインなどもなさってる方のようです)

さて、小説についてですが内容はこんな感じ。
ストーリー:くわがたを追いかけた先にいたのは、妙に存在感のない男だった。彼は自分を世界の支配者だと名乗り、とある金貨を探すといいと言い残して去る。元ヒーロー役者の少年と自分、そしてしっかりものの姉が加わって、金貨のなぞ「ゴーシュ」を探し始める健輔たちだったが、簡単になぞは解けるはずもなく、そのうち大きな事件に巻き込まれてしまうのだった。

健輔にはちょっと難しい話を一方的にする柊(世界の支配者)。けれど、そこには何か意思が存在するような熱心さも冷酷さもなく、淡々とした態度があるだけ。その様子や言葉に首をかしげながらも、おぼろげにわかる部分を健輔なりに理解しようとして、話を黙って聞いている様子が興味深い。少し違った世の中の違った見方をしていて、柊が何をいわんとしているのだろうととても気になってページが進むのがとても早かったです。そして読みやすかった!
公園で健輔が柊から話を聞く部分、無限ゼロサンダーの話が展開する部分、実際になぞを解こうとする部分が組み合わさってお話は展開するのですが、時間の流れに混乱することもなく、むしろ回想と現在がお互いに刺激しあって先の展開に興味をそそられました。口語的な表現もあいまって、これなら小さな子でも楽しく読めるような気がします。

最後の最後で、予想外にSF的な展開に持ち込まれ、著者のあとがきににやりとして、最後の最後まで楽しませていただきました。著者プロフィールを見ると、あの『ブギーポップは笑わない』の方だったのですね。私でも聞いたことがあるので、機会があったら手にとってみたいと思います。
NO.03■p327/講談社/07/03
2009年02月16日(月)

【読書記録】長野まゆみ「改造版 少年アリス」

ストーリー:蜂蜜は、学校に忘れきた図鑑をすぐにとってくるよう兄に言われ、友達のアリスを誘って夜の学校へ赴く。無事に図鑑を手にした二人は、その後も雰囲気の違いを楽しみつつ探検するのだが、教室で不思議な授業が行われるのを見てしまう。逃げ遅れたアリスは”先生”につかまってしまい、ちょっと違う”彼ら”と一緒に授業を受けることになるが――。

まずは、面白かったです!ファンタジックだけど、ふわっと軽くて新鮮で、楽しくてはらはらする。
蜂蜜の子供っぽいところ…怖いけど「怖くなんていないんだ!」と虚勢を張る様子とか、蜂蜜兄弟のやりとりを想像してほほえましげに笑うアリスとか、そのコンビとかがこの上なくかわいらしいですv冒頭では蜂蜜の周囲による、蜂蜜=守られる存在というような雰囲気でしたが、半ばでは勇士が語られ、蜂蜜の活躍もあってアリスは元の世界に戻ってこられます。この蜂蜜の毅然とした心持ちと、失敗を恐れない態度にはいい意味でギャップを感じさせられました。本当に頼れるってこういうことだなあと。
造語もファンタジックな世界観を引き立て、文中で出てくる草木とともに解説ページがあるのもとても良心的でよかったと思いますvかわいらしい一冊です。
2009年02月10日(火)

【アルファ】模様替えについて

こんにちは〜。前回の更新で、トップが変わったことにお気づきかと思いますが、いかがでしょう。基本的な問題はクリアしていると思うのですが、これが見づらい・わかりづらい等あったら教えていただけると幸いです。(とりあえず、問題はなさそうですが、ありましたら下部メニューの”メールフォーム”よりお送りくださいませ)

ずっと気になっていた事は以下の2つで、それは改善してみました。
・トップに表示される日数を3日分にして、過去の分もあわせて閲覧できるようにしたこと
・タイトル表記やフォームについてを下部に配置
2009年02月04日(水)

【読書記録】辻仁成「そこに僕はいた」

再読です。ちょうど10年ほど前に読んだ本で、不意に見かけて手に取ったのですが、よかったなぁとしみじみ思いました。

内容は、辻さんが小学生〜大学程度をすごした町とそこでのエピソードが詰まったエッセイ。転勤族だったそうで、福岡・帯広・函館が出てきます。
今回は『そこに僕はいた』を読んで、この本を薦められた意味がなんとなくわかったような気がしました。片足が義足の友達がいた――、それがこのエピソードの冒頭の文。人の気持ち、自分の気持ち、違いがある子・ない子。その友達の心持ちもさることながら、それに相対するだけの何かが辻さんにはあって、そういう感性があったからこそ彼の文には何かが残るのだろうなと思わされました。これもひとつの経験で、その後の中学や高校でもいろいろな良き大人に出会っていて、やさしかったりするだけではなくて、時には愛情を持って叱責してくれたりする、そういう辻さんの環境がうらやましいなと思いました。
将来を考える今だからこそ、胸に響いたのは『白と黒の歌』。画家を目指している大学生でもなく居酒屋で飲んだくれてる、僕よりちょっと年上の青年。そして、その彼が気に入った本。そこに書かれた詩に気がついていたのか、それとも本自体を気に入った…というわけではないと思うのですが、苦いながらにそういう人もたくさん見てきたのだろうなと改めて思って。
『夢の中へ』は、それをもっと拡大させて社会を見てしまったような気がしました。頭ではわかっていても、直に聞こえてくること・見てしまうもの、それってやっぱり違うんだろうな。だけど、それを同級生が縮図として手にしてしまったというのはあまりにも生々しくて、学生だったころの輝きがあるからこそやりきれない気がする。

お金持ちで豊かな環境に恵まれることだけが、豊かな人生ではないのかもしれない。少なくとも、こうやっていろいろな事をして生きてきた辻さんの生き方がいいなと思いました。
それはまるで小説のような暖かさと、現実のほろにがさが混ざった一冊。
NO.01■p200/角川書店/92/11
2009年02月01日(日)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン