Story of love
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その紙は薄いローズピンクで、その時のわたしの気持ちが投影されているような色。 罫線を無視して文字が走り書きされている。生き生きと。まるではしゃいでいるかのように。
マフラーがあと少しで編みあがる
そう、その時わたしは、クリスマスのプレゼントにと、編み棒を懸命に動かしてマフラーを編んでいたんだっけ。色は・・・・・モスグリーン。 きっと彼に合う。 指先からあふれる「好き」をそのままに閉じ込め、ふわっと首にかけてあげる日を瞼に浮べて。 紙面を埋め尽くすかのように彼への想いを綴っていた日記も、その間だけはおざなりで、何日もの間、走り書き程度しかしていなかったことを思い出す。 喜ぶ顔を思い浮かべながら、人のために何かをすることに打ち込むことで、あんなに幸せだった日々ははじめてだった。 相手に何かを注ごうとすることで自分が満たされていく。たぶんあれは「愛」と呼ぶにふさわしい感情だったのだろう。 そう、わたしはたしかに彼を愛していたのだ。 そして、たぶん今でも。
(つづく)
ホコリが紙のまわりを取り囲んでいた。
昔からわたしはホコリに不思議なものを感じている。ただのゴミのかたまりなのに、ふわふわとして羽のよう。
天使の羽というのは、もしかしたら人が出したいろんなものが混ざったホコリのような素材で出来ているのかもしれない、とふと思う。
つるつるの床にぴったりとくっついてしまっていてなかなかとれない。爪を使って引き寄せる。空中でひらひらとゴミを払って書かれた文字に目を通した。
その紙は、わたしが日記がわりにしている鍵のかかるシステム手帳の1枚だった。いつだったか途中まで書いて、閉じておくことを忘れてしまったものだと気がついた。
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