昔々・・
醜い使い魔は、見よう見まねで一着の服を作った。
醜い自分から、美しい物を産み出したかった。
主である悪魔や、ときには人間にも服を作り続けた。
服が人をきれいに見せるわけではなかった。
着る人の力を借りて、自分の服が綺麗に見えている。
自分同様に、半人前の服だったが、それでも、充分だった。
ある日、人間が使い魔を呼び出し、服作りを頼んだ。
呼び出した人間は、何人もの家臣と城を持つ王族だった。
いままで、何かを頼まれたことなど無かった醜い使い魔は、うれしかった。
いくつもの服を作った。
光をはじくダイヤモンドのビーズ。軽やかに踊って、足元で空間に溶けるシルク。
しかし 愚かな使い魔は、服だけを求められている事に、気が付いていなかった。
気が付きたくなかったのかもしれない。
自分たちの手のひらで躍らされる醜い化け物の姿は、
さぞや滑稽だったはず。
用が済むと、人間達は姿を消した。
人間界に行くには、それなりの代償が必要となる。
非力な使い魔にとって、それはかなりの魔力の喪失。
そこでやっと目が覚めた。
自分の姿は以前とかわらない、ただの使い魔。
そして、利用されたことを絶望するほど、愛してなかったのかもしれない。 時がたち、主の館を離れて暮らす使い魔を、またも人間達は呼び出した。
今度は拒絶できない結界の中に。
利用されるのをわかっていて、使い魔は承知した。
服を作った。
繊維に漆を織り込み、毒真珠のビーズで刺繍を施した。
レースのフリルの間に、吸い込めば幻覚作用を引き起こす麻薬の粉をまぶし、服の裏地には、触れた皮膚からもゆっくりと猛毒が入り込む「呪われた竜の血」を塗りこんで仕上げた。
醜い使い魔は、醜い服を仕上げた。
しかし出来上がりの醜さは半人前だった。
後の半分は、その服を着た者達によって補われた。
もがき苦しむツメに引き裂かれたレース。
かぶれ爛れた皮膚からにじみ出る琥珀。
のどから吐き出す深紅のルビー・・・
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