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2009年03月13日(金) 中国新聞社説(3月9日)

造成地と鳥の楽園 共生の道探り出したい '09/3/9

 企業用地を造成している、広島市佐伯区の八幡川河口にある埋め立て地。
広島県の財政難に伴う計画の遅れから、雨が十数年たまってできた巨大な
池が、越冬する野鳥たちの楽園になっている。

 この池を埋める工事に取りかかった県が、自然との「共生の道」を探っ
ている。全面埋め立ての方針から転換し、一部を現状のまま残す方向に踏
み出した。自然保護団体の知恵も借りながら、よりよい「共生」エリアの
実現にじっくり取り組んでほしい。


 池の広さは約二十三ヘクタールで、平和記念公園全体の倍近い。冬は毎
年、絶滅危惧(きぐ)種のツクシガモなどカモ類を中心に小柄で脚の長い
シギ類、カワウなど約五十種、三千羽余りの水鳥でにぎわう。
 県が残そうとしているのは池の東側の七・五ヘクタール、三分の一ほど
だ。もともと、そこに野鳥園を設ける計画がある。いったん埋めて掘り返
すのは費用の無駄になる。それに埋めてしまえば、せっかく越冬地として
池になじんだ渡り鳥たちを追い払うようなものだ。どちらも、もったいない。


 池のそばには、埋めた堤の上に砂を盛って県が造った長さ約一キロの干
潟がある。潮が引けば砂州で餌をついばみ、満ちれば池で羽を休める。
人工干潟と池が相まって、野鳥の楽園を形作っている。
 海の干潟と淡水の池―。野鳥に居心地のいい、この二つの環境こそ、四
半世紀ほど前に県が埋め立て構想を問うた時、代償策として挙げたもので
ある。

 当時のうたい文句は「二十一世紀の広島づくり」だった。一つは産業の
礎づくりという意味だ。海と山に挟まれた広島にとって、土地の拡張は重
要だ。
 潤いのある環境づくり、がもう一つの意味である。当時は高度成長が一
段落し、心の豊かさを求める風潮も高まりつつあった。
 自然環境に対する関心は、その後も高まるばかりだ。ウオーキング人気
で、身近な環境に目を向ける人も増えている。


 この際、野鳥園の在り方を議論してはどうだろう。人工干潟はひと足先
にできたが、野鳥園は後回しになっている。
 池を三分の一残せば自然も三分の一残るというほど、ことは簡単でない。
「数年はかかる」という工事が長引けば、人けを嫌う渡り鳥が飛来しなく
なるだろう。水質の変化で、隠れ場所になるアシ原が枯れるかもしれない。

 工事の影響がどんなふうに出るか。県と保護団体とが慎重に見守りなが
ら、野鳥園の青写真を描いていくのも一つの方法だ。
 同時に、越冬地の池をもっと残すよう、埋め立て範囲を減らしてもいい
のではないか。埋め立てに必要な建設残土も景気減速で集まりにくくなっ
ているという。

 自然環境はいったん失ってしまえば、人の力で元通りにするのは簡単で
はない。瀬戸内海では先駆的な人工干潟も、いい状態を保つのは大変だ。
どんな共生の道を選ぶのか。県民の間に議論を広げ、深めていくべきだろ
う。

以上、引用。中国新聞 2009.03.09 2面「社説」


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