つれづれ日記。
つれづれ日記。

2012年02月29日(水) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・45

「伊織(イオリ)、どかんした(どうしたの)? 深刻そうな顔して」
 お母さん、ティル・ナ・ノーグって知ってる?
「知ってるもなにも、お父さんの生まれ故郷じゃない。忘れちゃったの?」
 わかってる。でもそれだけしか知らないんだもん。確かわたしを助けてくれた人がそうだったんだよね。
「あなたは体が弱かったからね。大病で大きな診療所までは時間がかかりすぎて。途方にくれていたところを旅のお医者様が助けてくれたの。伊織だって知ってるでしょ」
 知ってる。子供のころから何度も聞いてたし。きっとここよりずっとずっと医療が進んでるんだよね。
「そうね。そのおかげで伊織が助かったんだもの。お医者様には感謝してもしたりないわね。お礼を言いたかったんだけど、ばたばたしてる最中に旅立ってしまったの。何か手がかりがあればよかったのに」
 ティル・ナ・ノーグに行けば、もっとすごい医術を学ぶことができるのかな。
「気になるの?」
 ちょっとだけ。いつか、行ってみたいな。
「いつかでいいの?」
 いつかじゃなくてもいいのかな。
「それはあなた次第ね。伊織、あなたはどうしたい?」
 わたしはーー 






過去日記
2004年02月29日(日) 一部と二部について

2012年02月28日(火) 「人魚姫とおうじさまイメージ」UP。

本当にありがたいです。

競作企画「いろは」のイラスト部門の作品で、先行作品はこちらです。
誰がなんといおうと先輩と詩帆ちゃんです。先輩かっこいい。というか妖しい(ぇ。
EGの時にはなかった色気がでているような気がします。いえ。普通に考えたら苦労人と同じ時間枠なんですけど。
苦労人と甘党男がテスト勉強しているときにこの人達はこんなことしてました。青春だなぁ。

ちなみに一年時に昇と詩帆は同じクラスですが成績のほうはトータルだと昇のほうが上だったりします。詩帆自身、ある程度キープできればいいやくらいの感覚なので。裏ありまくりですが。

他の作品もだけど、ちゃんとこっちもかかないとなぁ。うん。



字書きさん・絵描きさん協作企画「いろは」参加作品です。






過去日記
2010年02月28日(日) 「花鳥風月」03UP
2006年02月28日(火) わかったこと
2004年02月28日(土) 休みなのに(涙)

2012年02月27日(月) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・44

「ーー他にも説明したいことは海ほどあるけど、一度に説明しても理解に苦しむだろうからまた次の機会に説明させてもらうよ。
 何はともあれそれまで元気で。どこかの海のお兄さんより」
 つづられていた手紙を元の形におりたたんで元の封筒にもう一度丁寧に入れる。ひと呼吸おいてハリセンを手にとって。
「どこかの海のおにいさん。ありがとうございました」
 ここまで言うのがやっとで。確かにおにいさんのハリセンがなければ魔物と戦うことはできなかった。お父さんからもらった大切なものだとういうこともわかる。
「お父上からいただいた大切なものなんだから大事にしないといけないよ」
 おにいさんのいうことももっともだ。だけど、やっぱり釈然としない。
 とにかく今日はいろいろなことがあった。ティル・ナ・ノーグの地をふんでいろいろなところをまわって。お世話になるはずのおばさんの家が留守で途方に暮れていたところを変な男の子と出会って、そのままなぜか魔物と戦うことに。普通、そんなことは滅多にないよね。
「……今日はもう休もう」
 こうして、ティル・ナ・ノーグの一日目は幕を閉じていった。






過去日記
2006年02月27日(月) 風邪
2005年02月27日(日) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,44UP
2004年02月27日(金) 「EVER GREEN」5−4UP

2012年02月26日(日) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・43

海で出会った君へ

やあ。元気にしてるかい?
オレのことを覚えていてくれると嬉しいんだけど多分無理だろうからこうして手紙を残しておくよ。
まずは、そうだなぁ。いろいろ気になることはあるだろうけど、一番は白い包みのことだよね。申し訳ないけどあれは戦いの最中にぼろぼろになってしまったんだ。せっかく君のお父上の大切な贈りものだったのにごめんね。代わりと言ってはなんだけど、オレの故郷の流儀にしたがってちゃんとなおしておいたから。ひょっとしたら今までと違う機能がそなわっていて戸惑ってるかもしれないけど、今回はそのことについて説明させてもらうよ。
もしかしたら、武器を使うときに衝撃波が出たんじゃないかな。ちょっとだけ改良しておいたんだ。君のお父上のはからいなんだろうけど、あれだけで戦うのには心もとなかったから。衝撃波の程度はオレ自身もよくわかってないんだ。悪いけど君自身で確かめてくれると助かるよ。






過去日記
2006年02月26日(日) ブラックキャット

2012年02月25日(土) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・42

拝啓 みんなへ

 お元気ですか? わたしは元気です。
 いろいろあったけど、こうしてティル・ナ・ノーグにたどりつくことができました。

 お父さんには言いたいことがあります。
 まず、おばさんの家には誰もいませんでした。どうやら仕事の都合で入れ違いにでかけてしまったらしいです。このあたりのことはもう少し調べてもらいたかったです。
 あと荷物について。年頃の女の子のかばんの中を勝手にのぞくようなことはしないでください。餞別(せんべつ)の品だからといって、ハリセンはどうかと思います。おかけで船の上で恥ずかしい思いしたんだから。
 
 船の上の出来事といえば――

「……あれ?」
 ここで筆をいったん止める。餞別だからと無理やり入れ込まれていたお父さんからのおくりもの。送り返そうとしたところを誰かにとめられて、しぶしぶここまでもってきた。途中で船が怪物に襲われて、これで応戦したんだった。
「誰だったっけ」
 頭にもやがかかって思い出せない。船がおそわれたこと、怪物がでてきたことははっきり覚えているのに。自分ひとりで戦って勝てたなんて安易な発想はさすがにない。そもそも家で教わったのは簡単な護身術程度の体術だし。
 今度は荷物の中からハリセンを取り出す。と、包んでいた風呂敷から手紙が出てきた。






過去日記
2011年02月25日(金) 委員長のゆううつ。STAGE1-3UP
2008年02月25日(月) おそくなりましたが返信です。
2006年02月25日(土) 送別会
2005年02月25日(金) 高校卒業して……
2004年02月25日(水) やっぱり温泉

2012年02月24日(金) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・41

 夜も遅いということで、その日はアルテニカ家にお世話になることになった。
「すみません。夕食までいただいたのに泊まらせてもらえるなんて」
「いいのよ。気にしないで」
 長身の女性が声をかける。
「息子を助けてくれた恩人ですもの。これくらいはさせてちょうだい」
 エリー・アルテニカ。ユータスさんのお母さんだ。暖かいスープ。半分野宿を覚悟していたから、こうやって食事をさせてもらえるだけも大変ありがたい。
「ここへはどうやってやってきたの?」
「シラハナからの定期便があるの」
 もっとも定期便は都からしか出ていないし、家からそこまではさらに時間がかかったのだけれど。
 船の旅は刺激的だったらしく、二人とも目を輝かせながら聞いていた。
「怪物に襲われたのに、イオリちゃんよく無事だったね」
「うん。これを使って――」
 そこではたと我にかえる。
 船で怪物に襲われて、それでも無事にたどりついた。気づいたらハリセンがとんでもないことになっていて、妖精の森でおそわれたときもこれが武器になってくれた。
 ハリセンはお父さんがくれたもの。はたくことはできるけど風をおこしたり、ましてや人を吹っ飛ばすほどの能力はないはず。そもそもわたしはどうやって海での危機をのりこえたんだろう。
「……あれ?」
 何か忘れているような気がする。わたしは船で誰かに会った?
 誰かに会って。そこから何が起こった?
「イオリちゃん?」
 気遣わしげな声に慌てて首をふる。
「長旅で疲れてるでしょう? 今日はゆっくり休んでいってね」
 確かに疲れているみたいだ。お言葉に甘え、与えられた部屋で早めに休むことにした。

 






過去日記
2010年02月24日(水) Web拍手レスです(個人的なレスですみません)
2006年02月24日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,94UP
2005年02月24日(木) 風邪再び
2004年02月24日(火) ミーハーにつき。その2

2012年02月23日(木) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・40

「名前教えてもらってもいいかな」
 今更ながらに問いかける。わたしの名前は何度となく言ったからわかると思うけど、彼の口からはひとことも聞いてない。そろそろ自己紹介くらいしてくれてもいいはず。
「お兄ちゃん自己紹介もしてなかったの?」
 そう思って尋ねると、再びニナちゃんの眉がつり上がった。
「お姉さんはイオリさんでよかったよね」
 確認の声にうなずく。隣の彼はそうなのかとつぶやいて、三度ニナちゃんににらまれてた。どうやら興味のないことにはとことん興味がないみたい。
「イオリ・ミヤモトです。白花(シラハナ)から来ました。あなたのお名前は?」
 そう言ってダークグリーンの瞳を見つめると、彼もわたしの青の瞳を見つめ返す。ぼうっとした風体と森での一件があったから深くは考えてなかったけど、改めてみると背がわたしより頭ひとつ分は高い。まじめな顔をすれば、なんとなく真面目そうな人に見える……かもしれない。
 ひとつ、ふたつ。瞬きをしたあとに男の子の口から出た言葉は。
「ユータス・アルテニカ」
 これが男の子と――ユータとまともな会話をした瞬間だった。

 ここまでの道のりが長いと感じるのはわたしだけなのかな。






過去日記
2005年02月23日(水) これでも
2004年02月23日(月) 物書き中

2012年02月22日(水) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・39

「ぺるしぇ?」
 聞き慣れない言葉に首をかしげる。
 怪物に襲われる前に森でみたお魚もどきのことだろうか。だったら納得がいく。ふわふわ飛んでて、透き通っていた。
「あの怪物って『ペルシェ』っていうんだ」
「ペルシェを知らないのか!? !?」
 なんの気なしにもらした声に男の子が目をむく。
「あの透き通るような色、魚のような造形」
 そこからつらつらと。ペルシェという生き物についての講義をうけた。鳥と魚が合わさったような姿でティル・ナ・ノーグというよりもアガートラム王国に生息する生き物だということ。くわえてこのあたりだと妖精の森に多く見られるらしいということ。ぼうっとした表情とはうってかわって。一つの単語でよくこれだけ話ができるなあ。
「まさに生きる芸術。この生きる化石とも呼ぶべき生物を知らないなんて――」
 そこまで言って、ふと押し黙る。視線を部屋中に向け、ニナちゃんから、わたしの方をみて一言。
「あんた誰だ?」
「お兄ちゃんっ!」
 ようやくわたしの存在に気づいたらしい。あまりな物言いにニナちゃんが非難の声をあげる。
「倒れていたところを男の人とお姉さんが連れてきてくれたの。何か言うことがあるでしょ」
 男の人は先に帰っちゃったけど。そう言ったニナちゃんにわけがわからないという表情の男の子。
「お礼。ちゃんと言った?」
「なんでオレがお礼を言わなきゃ――」 
「い・っ・た?」
「……ありがとうございました」
 頭ごなしに言いくるめられ、状況がわからないまま頭を下げる男の子。なんとなくだけど。この兄弟の力関係はよくわかった。






過去日記
2010年02月22日(月) 「花鳥風月」02UP
2006年02月22日(水) ボーリング
2005年02月22日(火) なんとか60000
2004年02月22日(日) 勝手にテーマソング(隆福丸)

2012年02月21日(火) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・38

 男の人ってみんな、ああなんだろうか。
 違うよね。お父さんはなんというか豪快っていう言葉が似合いそうだし、船で会った男の人は優しそうで……どこか、違っていたような気がする。さっきのユリシーズは軽率って言葉がぴったりな印象だった。
 そして、お星様にされた男の子とはというと。
「お待たせしました……あれ?」
 ユリシーズの姿が見えないことに気づいたんだろう。女の子があたりをきょろきょろと見回す。用事があって先に帰ったと説明すると、そうなんですかと納得したようにうなずいた。
「はじめまして。ニナ・アルテニカって言います。このたびは愚兄をここまで連れてきていただいてありがとうございました」
「いえ、そんなたいそうなことじゃ」
「おにいちゃんっていつもこうなんです。ぼーっとしてて、そのくせ何か気になることがあったら猪突猛進というか、グールになりそうになるまでたおれないというか」
 今だって、何か気になるものでも見つけたんでしょ? そう続けられてそんなところですと曖昧な返事を返す。お星様にしましたなんて口が裂けても言えないし。
「ほら、お兄ちゃん。いつまで寝てるの」
 お兄ちゃんってことは予想通り妹さんらしい。二度、三度揺すられた後、
男の子は重いまぶたをあけた。
「……ニナ?」
「やっとお目覚め?」
「なんでおまえがこんなとこにいるんだ? 怪物が出たら危ないだろ」
「ここは家。まだ寝ぼけてる?」
 続けてニナちゃんがさらに体を揺する。目をつぶりそうになったところを揺さぶり、再度閉じそうになると再度ゆさぶられて。
「ペルシェ!」
 男の子の瞳が大きく見開いた。






過去日記
2005年02月21日(月) スナフキンでした
2004年02月21日(土) 掃除

2012年02月20日(月) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・37

「男と間違われてその奇妙な武器でお空の星に飛ばしました、なんて言っても誰も信じないだろ」
 いたいところをつかれ反論できないのが悔しい。だからといって訂正しても墓穴をほるだけだから、ここは彼の説明に水をささないことにする。
「どうした?」
「いろいろとありがとうございました」
 とはいえお世話になったことには変わりないので三度頭をさげる。俺のことは嫌いじゃなかったか? という問いにはそれはそれ、これはこれですと返した。
「だけど。金輪際変な言い方しないでよね。ユリシーズ」
「いきなり呼び捨てか。俺のことそんなに気になる?」
「勘違いしないで。尊敬に値しないひとはわたしの中では呼び捨てで充分なの」
 外国の常識はよくわからないけれど。一般的な常識非常識はわたしにだってわかる。いくら気にくわない人とはいえ頭をさげるくらいの礼節は持ち合わせているつもりだ。
 そんなことを考えているとふいに、青みがかった緑色の瞳にみつめられる。
「おまえ、将来いい女になりそうだな」
 もっとも、その前に見た目をどうにかしないとな。そういわれて反射的にハリセンを手にしてしまう。
「おやすみ。縁があればまたな」
「おやすみなさい。もう二度と会うもんか!」
 こうしてユリシーズと別れた。






過去日記
2006年02月20日(月) 中間報告十五回目
2005年02月20日(日) 近況をば
2004年02月20日(金) お知らせ……ってほとじゃありませんが

2012年02月19日(日) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・36

「本人がそう言ってるだろ」
「女って、俺たちとは違う造形じゃないのか?」
 大まじめにこの台詞。からかっているわけでも悪意があるわけでもなく、目の前の男の子は真剣に問いかけている。
 だから、なおさらたちが悪い。
「……女?」
 三度首をかしげて。ここでわたしの限界がきた。
「おん――」
「ふざけんじゃなか――!!!!」

 すぱあああああん!!!

 ハリセンで人を飛ばせることを知ったのも、ちょうどこの時だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「夜遅くにすみません。アルテニカさんのお宅ですか?」
 日も暮れて、星もちらほらと出始めた頃。わたし達はぼろぼろになった男の子を連れて一軒の家を訪ねた。
「はーい」
 ぱたぱたと音がした後、男の子と同じ髪をした女の子が姿を現した。
「おにいちゃん!?」
 たぶん、妹さんかな?
「えっと、その……」
「森をさまよって倒れていたところを拾ってきたんだ」
 助け船をだしてくれたのは鳶色の髪の男の人。うん。本当にそうなんだけど。 
 






過去日記
2006年02月19日(日) 米寿
2005年02月19日(土) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,43UP
2004年02月19日(木) 「EVER GREEN」5−3UP

2012年02月18日(土) 白花への手紙(仮)・35

「おまえ女か!?」
 いつものごとく、しきりに驚かれた後、へー、ほー、ふーむとじろじろ見つめられた。ひとしきりうなりをあげた後、ひとこと。
「そうかそうか。おまえ女だったのか」
 ばしばし背中をたたかれた。
「痛い」
「勘違いして悪かったな。怪我はなかったか?」
 目つきが急に優しくなった……気がする。
「さっきと態度が違いませんか?」
 初対面の時とは全然態度が違う。うろんげな視線を向けると、
「俺は女には優しいの」
 そういうものなのだろうか。いっそすがすがしさすら覚えてしまう。
 一方、もう一人の男の子はというと。
「おい、ユータス……」
「…………」
 無言のまま、わたしの周りをうろうろ。さっきのユリシーズさんの時とは違い、じっと見ては首をひねって、上から下まで視線をめぐらす。他意はないかもしれないけど、これはこれで落ち着かない。
「あの?」
 声をあげる前にこっちを見て。
 さっきまでのぼうっとした表情とはうってかわった真剣なまなざし。
 お互いの視線が交差すること数秒。
「女?」

 時が止まった。 






過去日記
2011年02月18日(金) 委員長のゆううつ。STAGE1-2UP
2007年02月18日(日) 「EVER GREEN」11−6UP
2004年02月18日(水) ゲームについて語ってみよう

2012年02月17日(金) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・34

「あなたはさっきの――」
「ユリシーズだ」
 声をあげる前に名乗られた。白花からティル・ナ・ノーグについてジャジャじいちゃんと会って。二人でたちよった酒場に居合わせた男の人だ。あのときは突き放したような感じだったのに、まさか助けられるとは。
「武器も持たずにこんなとこまでお散歩とは。器が大きいんだかただの馬鹿なのか」
 ひどいいいかたはさっきと変わらない。
「危ないところをありがとうございました」
 それでも助けてもらったのは違いないので深々と頭を下げる。もっとも『用事のついでにたまたま見かけただけだ』って軽くあしらわれたけど。
「用事ってなんだったんですか?」
「ユニコーン」
 その言葉はわたしでも知ってる。心のきれいな女の人に引きつけられるだったかな。でもなんでこんな場所にと首をかしげるユリシーズさん。男の子のほうは男の子で、ようやく立ち上がって肩や首をまわしている。さっきの言葉はそのまま彼にかえしてあげたい。
 これはもしかして。
「あの」
 うろんげな視線を横に、今度はこっちから名乗りをあげる。
「わたし宮本伊織……イオリ・ミヤモトって言います」
「ご丁寧にどうも。だがなのってる場合か?」
 わたしだってこんな二度手間したくない。だけど、確かめたいことはある。
「ユニコーンがそばにいるって情報でここまできたんですよね」
 そして、わたしの予想ははずれていなかったらしい。
「女がいればよってこないこともないけど、ここに女なんているわけ――」
 わたしと彼を交互にみて、もう一度わたしの方を見て。
 首をかしげてうなって、目を見開いて。
『女!?』
 男性二人の声が重なる。少しまえと同じ光景が繰り広げられることになった。






過去日記
2006年02月17日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,93UP
2004年02月17日(火) 椎名の温泉日記。5

2012年02月16日(木) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・33

「それにしても、本当によく眠ってましたね」
 しかもこの状況で。ここまでくると呆れを通り越して感心すら覚えてしまう。
 自宅でも宿でもない森の入り口で。周りを魔物に囲まれた状態で熟睡できるなんて常人にはできないことだ。少なくとも私にはできない。
「違うって言ってたけど何が違ったんです?」
 一番初めにわいた疑問を投げかけると、『天馬を見に来た』という声が返ってきた。
「仕事が一息ついて家を出たらペルシェが見えて追いかけてたらここまでたどりついた」
「ペルシェ?」
 当時はペルシェと呼ばれるものが何のことだか全然わからなかったから。姿を追いたくなるくらい珍しいものなのかなって思ってた。
「じゃあ、『ぺるしぇ』ってものを追いかけたら疲れて寝ちゃったってことですか?」
 そう尋ねると、首をたてにふるかわりにうーん、という不可解な返事。
「ペルシェを追いかける途中で変なものを見つけた。追いかけてて、あんたに出くわした」
 変なものって、何のことなんだろう。再度疑問をぶつけるとわからないとの声。頭が半分眠っていた状態だったからちゃんと認識できていなかったらしい。よくわからないものと間違えられるわたしって。
 そもそも魔物に遭遇しても熟睡してられるほどの仕事ってなんなんだろう。今度はわたしが頭をひねりながら歩いてると、足先が何かにぶつかった。
「矢?」
 わたしが使った武器はハリセンのみ。風をおこすことはできても矢を飛ばすなんて芸当はできない。
 だったらどこから飛んできたんだろう。拾ってまじまじと見つめていると。
「どうやらうまくいったみたいだな」
 第三者の声が耳に届いた。






過去日記
2006年02月16日(木) あっというまに
2005年02月16日(水) そう言えば
2004年02月16日(月) 椎名の温泉日記。4

2012年02月15日(水) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・32

 すぱん!

 風をきったような音が響く。そもそも舞台道具として作られたものだから、ハリセンからこんな音がしても何ら不思議はない。でも注目したいのは、音と共に生じた副作用。
 音と同時に突風がわく。とっさのことに目をつぶって、また開いて。
「……うそ」
 魔物は遠くにふきとばされている。その事実に気づいたのはだいぶん後になってからのこと。
「こっち来ないで!」
 ほうけてる場合じゃなかった。風撃で数はずいぶん減ったものの、完全に驚異が消え去ったわけじゃない。
 とにかく必死になってハリセンを振り回す。
 右。
 左。
 また左。
 意志をもって振り下ろせばちゃんと対応してくれるってことはわかった。なんとなくだけど、体術の延長と思えばいいんだと思えば身のかわしかたも理解できるし。
 と言うよりも。
「いい加減におきろ――!!!」
 三度目の怒号とともにハリセンを振り下ろして。
 それが、決定的な一打となった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ん……」
 目をこすりながらダークグリーンの瞳の男子がようやく目を開ける。おはようございますと皮肉をこめて言うと『おはよう』と返ってきた。続けて『何が起きたんだ?』とこの台詞。実はわざと言ってるんじゃないんだろうかって思えてくる。
「ゆっくり眠れたみたいで何よりです」
 さらに皮肉をこめて笑いかけると本当によく眠れたと返ってきて、初対面にもかかわらず本気で殺意がわいた。 






過去日記
2008年02月15日(金) ぱわーぽいんとのリンク
2004年02月15日(日) 桜

2012年02月14日(火) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・31

『可愛い女の子が一人旅なんて危険だから。お父さんの気持ちもくみ取ってとっておきの武器を作ってみたんだ。気に入ってくれると嬉しいな』
 現れたのは故郷を旅だった時にお父さんが渡してくれたハリセン。一般的なそれとは一回り大きくて包みを広げた時は迷わず海に捨てようとした。それがなぜか、姿を変えて目の前に姿を顕している。
 どこかの海のにーさん。
「これって一体何ですか?」
 ここが海だったら間違いなく捨てているだろう。でもここは森の中で目の前には怪物がいて。猫の手もかりたいっていうのは間違いなくこんな状況のことだから、ぎりぎのところでハリセンを捨てずに握りしめる。
 真っ白な厚紙でできていたはずなのに手にしたそれはうっすら青みがかっている。重さは以前の時と変わらないけど、これってもしかして、銀……?

『第一段階の具現化ができたなら、相手に向かって攻撃するんだ。君のイメージしやすいもの、そうだな。剣でもいいし槍でもいいし。想像にあわせて武器が勝手に動いてくれるから』
 
 わたし、イオリ・ミヤモトは医療を学ぶためにティル・ナ・ノーグまでやってきた。だから断じて見ず知らずの怪物とハリセン片手に戦うためにきたのでは断じてない。
 なのに、なんでこんな状況にいるんだろう。
「どこかの海のにーさん恨みます!」
 ぶつぶつつぶやきながらハリセンを握った手にぐっと力を込める。護身術程度の体術は習得しても剣や槍の扱いなんて全く知らない。
 本当になんなの? この状況。わたしはただ医学の勉強がしたかっただけなのに。
 それもこれも。
「なんとかしろーーー!」
 感情をむき出しにした声と同時に武器を振り下ろす。後先なんて考えられない。ただただやけっぱちだった。 






過去日記
2008年02月14日(木) 賞状のリンクです
2006年02月14日(火) 二月十四日
2004年02月14日(土) 2月14日

2012年02月13日(月) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・30

『肌身離さず身につけておいて。必ず役にたつから』
 海の上で荷物に忍ばせてあった手紙。『どこかの海のにーさん』よりとしめくくられていたそれには続きが書き連ねてあった。
 親からもらったものはどんなものでも大切にしたほうがいいとか。手紙はちゃんと書いて送った方がいいとか。

 腕輪の正しい使い方とか。

 冗談かと思ったけど、もしかして本当に!?
 自分でも馬鹿げてるとは思う。今はわらにもすがりたいこの状況だし覚悟を決めるしかない。
「どこかの海のにーさん、わたしに力をかしてください」
 というか、そこで寝てる男子いいかげん起きなさい!
 口にだして、一部胸中でつぶやいて左手首を強くにぎる。かくして異国の地での戦いが幕を開けた。

『腕輪に触れて強く念じるんだ。初めのうちは何でもいいから声に出してみるといいかもね』
 何をどう念じるんですか。試しにお願いとか出ろとかつぶやいても何も変わる気配はなかった。強いて言えば獣との距離が近くなったのと、こんな状況なのに男子が起きないって事くらい。そもそもこの人を追わなければこんなことにならなかったのに。
『強い気持ちがあれば、ちゃんと使いこなせるはずだ。初めのうちは慣れないかもしれないけどがんばって』
 おにーさん、何をどうがんばれって言うんですか。
 それよりも、何よりも。
「いい加減起きなさいよ!」
 叫ぶと同時に辺りがまばゆい光に包まれた。






過去日記
2011年02月13日(日) 二月十三日。
2010年02月13日(土) 「花鳥風月」01UP
2008年02月13日(水) おそくなりましたが
2007年02月13日(火) 四周年たちました
2006年02月13日(月) 二月十三日。
2004年02月13日(金) 仮・一周年

2012年02月12日(日) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・29

 いつの間にかうたた寝してしまった。ただでさえ暗くなりかかっていたのに今度は真っ暗だから帰り道もわからない。
「起きてください!」
 男子はまだ眠っていた。この状況で眠ってられるなんてよっぽど根性がすわってるのか疲れきってるだけなのか。
「おきてってば!」
 どちらにしてもいいはずがない。ゆさゆさと体をゆさぶって。強引に平手打ちでもするべきかと思案していると、目の前の男子はようやく目を開けた。
 薄茶色の髪に濃い緑の瞳。寝起きなのと眼鏡をしてないからか表情がぼうっとして見える。そして、やっぱりユウタに似てる気がする。
 男子のダークグリーンの瞳がわたしの青の瞳をとらえる。じいっと見つめ合って彼がいった一言は。
「……違う」
「だから何が違うの!」
 再び目を閉じようとした男子の首根っことつかんでがくがくゆらす。端から見れば漫才に思われるかもしれないけど事態が事態だからなりふりかまってなんかいられない。
 尋常じゃない事態。魚もどきは霧とともに陰をひそめ代わりにあらわれたのはきのこもどきと野犬もどき。野生の犬だからか牙や爪はどう猛そうで間違っても家で飼ってた犬(ユウタ)とは明らかに違う。
 明らかに違うのは体躯から感じられる気配。敵意むきだしってこういうことをいうんだろうか。その気になればいつでも喉をかみちぎれるとでもいいたげに犬歯をむき出しにしてうなっている。一方キノコもどきのほうは胞子をまき散らしてはいるものの、攻撃する気配はない。
 そして男子は結局眠りについてしまった。もしかして、キノコもどきのせい? だったらわたしも眠くなっていいはずなのに。
 どちらにしても相手は帰してくれる気配はなさそう。男の子とのケンカはあっても魔物とは皆無。それでも戦うしかない。この前は逃げるだけだったけど、今度はどうやって?
 シャラ……。
 左手につけた腕輪が目に留まったのはそんな時だった。 






過去日記
2010年02月12日(金) とりあえず再始動
2006年02月12日(日) 原点
2005年02月12日(土) さようなら
2004年02月12日(木) ロボットもの

2012年02月11日(土) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・28

 見つけてしまった以上、届けないわけにはいかない。
 男子が歩いて行った方を目指して草村を走り抜ける。時間はそんなにたってないからすぐ追いつけるはずだったのに。
「なんでいないの?」
 体格と歩幅の違いなんだろうか。道はあってるはずなのになかなか追いつけない。それとも走っていったとか? でも返さないわけにはいかないし。
 歩いていたのが早歩きに、早歩きから走りだして。しばらくすると街はずれの変な場所に出た。
 不思議な雰囲気の場所。森、なんだろうか。
 光の玉のようなものがあちらこちらに浮かんでいるようにも見える。まるでおとぎの国に来たみたい。そうこうしているうちに霧まで出てきて。ここはいったん引き返すべきか迷っていると、目の前を小さなものが通っていった。
 魚……鳥? 手乗りサイズのそれがふよふよと浮かんでいて。目をこらしてみると右も左も魚もどきだらけ。そして、そんな中に男子はいた。
「あの……?」
 正確には獣だらけの中で眠っていた。一本の木にもたれかかって瞳を閉じて。ご丁寧に寝息までたてている。その隣にはスケッチブックが置かれていた。ページが開いたままになってたからそっと視線をやると、目の前にいる魚もどきが描かれていた。もしかして獣を描くためにここまで来たのかな。だったらちょっと可愛いかもしれない。
 霧が出ている以上無理に出歩かないほうがいいだろう。男子の隣にちょこんと座って魚もどきをながめることにした。
 二人の男女の周りを鳥だか魚だかわからないものがふよふよと浮かんでいく。それは不思議で神秘的な光景。後になって、空飛ぶお魚のことを『ペルシェ』と呼ぶこと、普段なら人に危害を加えるような怪物はほとんど現れないということを知る。言い換えればそれは、よくも悪くも運がよかったということになる。






過去日記
2011年02月11日(金) 「委員長のゆううつ。」STAGE1−1UP
2007年02月11日(日) 二年目
2006年02月11日(土) やらない後悔よりも
2005年02月11日(金) 資格は取つておくものだ
2004年02月11日(水) 椎名の温泉日記。3

2012年02月10日(金) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・27

 がさっ。そんな音がして背後から人が姿を現す。
 寝そべっていたものだから慌てて体を起こして。もしかして魔物かと思ったけど姿は人間をしていた。ひょろながい男の子。一言でいえばそんな感じ。わたし自身も背は高い方だと思うけど、相手の方がもっと高い。無理矢理体格を縦にのばしたというか、まるで棒みたいだというべきか。ぼさぼさの薄茶色の髪という後ろ姿が視界に入った。
 がさ、がさ、がさと草を踏み分けて、さらに奥へ入っていこうとする。その姿はいつかの光景に似ている。子どもの頃から一緒にいてボール遊びをしていた。遠くに投げてしまったときは、こっちが心配になるくらいいつまでたっても帰ってこなかった。ようやくもどってきて誇らしげにボールを口にくわえて。頭をなでであげると嬉しそうに尻尾を振って。
 あの子がいたから今のわたしがあると言っても過言ではない。あの子の名前は。
「ユウタ?」
 思わずつぶやくと相手がふりかえった。 
 ダークグリーンの一重の吊り目。目を細めてわたしのほうをじっと見る。上から下までじいっと見つめて。
「あの……?」
 わたしの顔に何かついてるんだろうか。
 じっと見つめ合うこと数秒後。
「違う」
 何が? と問いかける間もなく再び歩き始める。一体なんだっだんだろう。首をかしげても答えが出るわけじゃなく。いいかげん宿を探そうと立ちあがろうとして、足下にかたい感触を感じる。
 それは視力を矯正するための道具。白花(シラハナ)でもまれに使っている人を見たことがある。
 小ぶりの眼鏡。確かめるまでもなく、それはさっきの男の人が落としていったものだった。






過去日記
2010年02月10日(水) 「世界観構築における100の質問」その10
2005年02月10日(木) 誠に申しわけありませんが
2004年02月10日(火) 椎名の温泉日記。2

2012年02月09日(木) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・26

 リオさんって初めの印象と違ってずいぶん真面目な人なんだなぁ。
 ジャジャ爺ちゃんは整体の後にお灸もするということで、一人だけ先に帰ってきた。
「グラツィア施療院、か」
 ジャジャ爺ちゃんの指摘したとおり、いい経験になったような気がする。そして、次行けば院長先生にも会えるって言ってた。一体どんな先生なんだろう。そして、リオさんはどんな魔法使いなんだろう。
「今度行ったら見せてくれるのかな」
 地図を見ながら一人つぶやく。叔母さん夫婦の家は言い換えればお父さんの実家になる。本当はお父さんの家になるところだったけど、お父さんがあんな調子で飛び出しちゃったのと残った兄弟がお父さんの妹さんしかいなかったから、自然の流れで妹さんにまわってくることに。今は結婚しておじいちゃんおばあちゃん、わたしの従兄弟にあたる男の子と一緒に暮らしてるって時々送られてくる手紙に書いてあったってお母さんが言ってた。そこを目指して歩いているのだけれど。
「……ない」
 ないのだ。家らしきところは多々あるものの、叔母さん夫婦の家と思わしき場所はどこにもない。
 お店なら何件か見たのに本当に見つからない。
「あの。エステル・レインディアって方のおうちをご存じですか?」
 行く人々に道の確認がてら居場所を尋ねて。ようやく手がかりがつかめたのは日も暮れかかった頃だった。
「レインディアさん? ああ、先日引っ越したよ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 なんでも父方のおじいちゃんが体調をくずしたのと家が老朽化したこともあって新しい場所へひっこしたらしい。それが今から二週間前のこと。引っ越し先も聞いてはみたものの、当然ながら見ず知らずの場所だった。
 お父さんの馬鹿。知らせるならちゃんとした場所を教えてよ。
 と、不満を募らせても仕方ない。
「異国の地について早々に野宿はやだな」
 日も暮れてきたし宿を探すべきなんだろうか。そんな時だった。






過去日記
2010年02月09日(火) 「世界観構築における100の質問」その9
2007年02月09日(金) 「EVER GREEN」11−5UP
2006年02月09日(木) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,92UP
2005年02月09日(水) こまごまやってました
2004年02月09日(月) 椎名の温泉日記。1

2012年02月08日(水) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・25

 もしかしてと思って尋ねてみると、リオさんも精霊と契約した魔法使いであって、わたしより五つ年上。同じくらいだと思ってたから本当に驚いた。それも精霊と契約したからですか? って尋ねるとこれはもともとと笑われた。
「じゃあリオさんは刻印があるってことですよね。それって見ることができますか?」
 何気なく尋ねてみると、それまで穏やかな表情を浮かべていたリオさんが急にかたまった。
「リオさん?」
 なぜか明後日の方向を向いてる気がする。目をつぶって、こめかみに指をあてて。どんな精霊と契約したのか気になったからなんだけど興味本位で聞くことじゃなかったのかな。
 もう一度名前を呼ぶと緑の瞳がぱち、ぱちと瞬いた。
「ごめん。見せれないってわけじゃないんだ。でも、ちょっと……」
「いいんです。ちょっと気になっただけだから」
 なぜか言いよどむリオさんに慌てて首をふる。手品みたいに気軽に出せるものじゃないだろうし、制約もあるってさっき言ってたし。それよりも魔法使いなのに整体師という仕事をしていることが気になった。魔法使いならこんなところで働かなくても気軽に悠々自適な生活をおくれそうなのに。そう思って問いかけると魔法は全てが万能ってわけじゃないというさっきと同じ返答があった。
「それに、魔法だけにたよってるといざって時に何もできなくなるから。魔法はその人の本来の力をサポートしてくれるものって程度に考えた方がいい。
 イオリちゃんは魔法使いになりたくて医学を学びに来たんじゃないよね? 病気や怪我で困ってる人を助けたい。その気持ちがあれば充分やってけるよ」
「そうなのかな」
 なんとなくはぐらかされたような気がするけど。
 イオリちゃんみたいな子がここで働いてくれたら心強い、今日はあいにく留守にしてるけど今度来たときに先生を紹介してあげるからまたおいで。そう言われて今日はその場を後にした。






過去日記
2010年02月08日(月) 「世界観構築における100の質問」その8
2005年02月08日(火) 流血
2004年02月08日(日) ちょっとしたプロフィール

2012年02月07日(火) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・24

「確か精霊って呼ばれるものと契約して、常人にはできない奇跡を起こせる人のことを言うんですよね」
 話には聞いたことがある。ただびとにはできない摩訶不思議な能力。精霊と呼ばれる人間とは異なる存在の力を借りることですごいことができるって。
「イオリちゃんは魔法使いになりたいの?」
 リオさんの薄い緑色の目が細まる。
「興味はあります。でも、わたしには才能がないみたいです」
 そんな不思議な力があるのなら病気や怪我をかんたんに治すことができる。そのほうがたくさんの人の力になれるしすばらしいことなんじゃないかって。
 子どものころ、誰かに言われたことがある。わたしには魔法の根厳たるもの『魔力』がまったくないって。白花(シラハナ)だとみんなが魔法を使えるってわけじゃない。むしろ、魔法使いという存在を目にすることが希有だ。でも誰にでも多かれ少なかれ魔力というものが存在して、わたしにはそれがなかったから病気にかかりやすくなったらしい。
 そう。本当ならわたしはここに存在すらしていなかった。そうならなかったのは通りかがりの医師がわたしを看取ってくれたから。魔法使いを呼べるほど裕福でもなくて、町医者にも助からないだろうとさじをなげられて。それでも『できる限りのことをやってみたい』ってその人は必死に看病してくれて結果わたしは命をとりとめた。本当ならすぐにでもお礼を言いたかったけどその人は旅の途中だからって名前を告げることなくいなくなってしまった。それから先はごらんのとおり。お父さんに体力をつけるという名目で武術を教わって、遠い異国の地のことを噂にきいてなかば反対を押し切る形で船にとびのって。
「奇跡でも魔法でもない『医学』という技術を学びにきたんです。ここで勉強すれば、わたしも『あの人』みたいに病気や怪我で困ってる人を助けられるんじゃないかって」
 わたしの決意を赤髪の男の人はだまって聞いていた。
「それが正解。魔法って全てが万能ってわけじゃないから」
「そうなんですか?」
 てっきりそうだと思ってた。
 リオさんの説明によるとこうだった。魔法は確かに便利ですばらしい能力だけど、魔法使いは契約の代償として体の一部に刻印と何かを制限されるらしい。
「何かってなんなんですか?」
「うーん。何かは何かとしか言いようがないかな」 






過去日記
2010年02月07日(日) 「世界観構築における100の質問」その7
2006年02月07日(火) 髪の毛談義
2005年02月07日(月) 中間報告・八回目
2004年02月07日(土) 帰宅

2012年02月06日(月) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・23

「おおっ。そこじゃ! そこなんじゃ!!」
 ばきっ、とかぼきっとか。そんな擬音が部屋に響いた――ような気がした。
「もうちょっと右……おおっ!」
 実際はジャジャ爺ちゃんが大げさに騒いでるだけだけど。簡素なベッドに爺ちゃんが寝そべって、その上にリオさんが乗っている。両手で爺ちゃんの腰を押しているように見えるけど痛くないのかな。
「整体を見るのは初めて?」
 リオさんの問いかけに素直にうなずく。施療院は白花(シラハナ)にもあったし医師だってちゃんといた。だけど、こういう仕事をする人は目にしたことはなかった。治療する手立てとしては医療の他に魔法使いにお願いするって手段もあるけど、わたしの育った村じゃそんな余裕はなかったし。
「イオリちゃんは怪我とかしたことなかったんでしょ? だったらこういった場面は珍しいかもね」
 そう言いながら再び爺ちゃんの腰を圧迫する。よく見ると全体重をかけているように見えた。普通なら痛くて耐えられないはずなのに、爺ちゃんは苦しそうには見えない。これも医療の一環なんだろうか。そう尋ねると首を横にふられた。
「正しくは、医療の一端かな。人間に関わらず、大抵の生物には骨格があるのはわかるかな。骨の上に肉体があって、それで生物のバランスを保っているんだ。
 でもその骨格がゆがんでいると体にひずみができてしまう。少しならいいんだけど、長期にわたると大きなずれに、病気や怪我の原因になっちゃうんだ。だから大事に至る前に骨格のゆがみを矯正していって、なるべく元気な状態にもどしていく。それが整体であり、整体師である俺の仕事」
「魔法使いとは違うんですか?」
 わたしには魔力というものがほとんどない。だから、魔法使いにはなれないらしい。だからこそ、ここ(ティル・ナ・ノーグ)へやってきた。魔法ではなく人を救うことができる手段、医術を学ぶために。






過去日記
2010年02月06日(土) 「世界観構築における100の質問」その6
2008年02月06日(水) 03. 西洋人形のような少女
2005年02月06日(日) まだまだ続いてます。
2004年02月06日(金) SHFH10−3

2012年02月05日(日) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・22

 ティル・ナ・ノーグへくる途中の船で魔物に襲われた。
 服も見事にぼろぼろになってしまったから、なけなしのお金で服を買って。さらに加えれば、当時のわたしの髪は短かった。
「ごめん。まさか女の子だとは思わなかったから」
 リオさんが両手を合わせて謝る。うまく聞き取れなかったけど、あの時渡されたのは男の子用の服だったのか。
「疑問には思わなかったんですか?」
『特には』
「……もういいです」
 わたし、宮本伊織(ミヤモトイオリ)は東国の白花(シラハナ)生まれシラハナ育ちではあるものの、れっきとした15歳の女の子だ。男の子に間違われるなんて心外――と言いたいところだけど、残念ながらこれが初めてじゃない。言動が男の子っぽかったらしい。子どもの頃は病気がちで近所の男の子達にからかわれたり時にはいじめられそうにもなった。そうならなかったのはお父さんが体術を教えてくれたから。『これを覚えれば男の子にもからかわれないですむ』って言われたから必死に覚えて。結果、男の子よりも強くなってしまった。だから今度は『男の子みたい』って言われるようになって。それからも色々あって最終的には同年代の男女の中で誰にも負けないくらいの体術と体力を身につけてしまった。
 その代償として、周りの女の子達が色恋沙汰にはしゃいでいてもわたし一人蚊帳の外って事態にもなったんだけど。その辺は思い出さないことにしておく。ましてや当時の髪は短くて。
「ジャジャ爺ちゃんはリオさんに用があったんじゃないんですか?」
 不快な空気は早めに壊した方が良い。助け船とばかりに爺ちゃんに声をかけるとそうじゃったのとうなずきを返した。
「いつものやつを頼もうかのう」
「時間は?」
「久しぶりじゃからな。みっちり頼む」
「わかった。じゃあ準備するよ」
 『いつもの』で、かつ『今のわたしに必要なもの』ってなんなんだろう。

 答えはほどなくしてお目にかかることとなった。






過去日記
2010年02月05日(金) 「世界観構築における100の質問」その5
2008年02月05日(火) 02. ロマンス・グレー(中年男性の白髪まじりの頭髪のこと)のおじさん
2004年02月05日(木) 「EVER GREEN」5−1UP

2012年02月04日(土) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・21

 思わず拳を握りしめてしまった。いい体ってなんだ。
「『骨格と筋肉とのバランスがとれた、将来の有望株』っていったところかな。将来が楽しみだ」
 しかも将来が楽しみってどういうこと? 自慢じゃないけど、わたしは、その――
「まだ10代だよね? 悔しいけど俺なんかあっという間に追い越してモテモテになるんだろうなあ」
 女の子らしくないし――
「そうじゃの。わしの若い頃を思い出すの」
「またまた。いくらなんでもこの子くらいカッコいい男の子にはなれないでしょ」
 ……ん?
「白花(シラハナ)って容姿端麗な人が多いのかな。トモエさんも美人だし、ソハヤさんもなんだかんだいって男気あふれてるよね」
 君はどんな男に成長するのかな。将来が楽しみだとか言われて。ここで、わたしは今まで感じていた違和感の正体がようやくわかった。
「あの」
『ん?』
 思ったよりも低い声が出てしまった。
「わたし、イオリ・ミヤモトって言います」
「ご丁寧にどうも。俺はリオ・シャルデニー」
「わしはジャガジャット。通称ジャジャ爺じゃ」
 それはさっき聞きましたしちゃんと覚えました。
「わたし、女です」
「確かにそう見えないこともないけど、やっぱり無理あるかな」
「お・ん・な! です」
 事実を述べると笑って談笑していた二人の男性陣の声がぴたりとやんだ。
「……本当に?」
「坊じゃなくて嬢ちゃんだったかい」






過去日記
2011年02月04日(金) 委員長のゆううつ。プロローグUP
2010年02月04日(木) 「世界観構築における100の質問」その4
2008年02月04日(月) 01. 制服を着た女子高生
2005年02月04日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,42UP
2004年02月04日(水) 旅立ち準備中

2012年02月03日(金) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・20

「わるいのぉ。こんなところまで着いてきてもらって」
 アフェールから出て、今度はジャジャじーちゃんの行きつけの場所へつきあうことになった。
「いいんです。わたしもお土産選んでもらったし」
 ティル・ナ・ノーグの地図は購入済み。お父さんからの手紙で叔母さん夫婦の場所もわかってるからそんなに急ぐ必要はないし。
「どこへ行くんですか?」
 お土産を片手に問いかけると行きつけの店の一つじゃよと返された。次いで、今のわたしにとってためになる場所だとも。
 『わたしにとってためになる場所』一体どんなところなんだろう。そんなことを考えながら歩いていると、大きな屋敷に到着した。
 本当に大きい。家じゃなくて屋敷って呼んだほうがいいのかも。行きつけってことは知り合いがいるのかしら。
「あれ? ジャジャ爺じゃん」
 若い男の人の声。そこには短く刈り込んだ赤毛の男子がいた。
「今日は診察の日だっけ?」
 薄い緑の瞳がわたしとジャジャじーちゃんを交互に見て首をかしげる。
「お孫さん? ……にしては、髪と目の色が違うか」
「違います」
「今日はお前さんの日じゃよ。こっちの嬢ちゃんは荷物をここまでもってきてくれたんじゃ」
 促されて包みを開けるとさっき買ってきたばかりの林檎のクッキーが姿をあらわした。
「うっわー。美味しそう。これってアフェールの?」
「嬢ちゃんのお土産探しのついでに買ってきたんじゃよ。ここには世話になってるからの」
「じゃあ遠慮なく……」
 受け取ろうとして、男子の注目がわたしに注がれる。上から下までじっくり見られて――見つめられて。わたし何かしたかな。もしかして、こっちの言葉の発音ができてなかったとか。
「あの……?」
 じっと見つめられて一言。
「いい体つきしてるよね」

 わけがわからなかった。






過去日記
2010年02月03日(水) 「世界観構築における100の質問」その3
2006年02月03日(金) 連想バトンです
2005年02月03日(木) この数日間
2004年02月03日(火) SHFH10−2

2012年02月02日(木) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・19

 迷いに迷って、結果的に林檎のケーキを購入した。クッキーだと数が足りなくなるかもしれないし、そのぶんケーキだと叔母さん夫婦に食べてもらうにはちょうどいい大きさだと思ったから。
「クレイアさんは一人でお店の仕事をしてるんですか?」
「呼び捨てでいいよ。見たところ同じくらいだろうし堅苦しいのは嫌いなんだ」
 あたしもイオリって呼ばせてもらうから。笑いながらお菓子を持ち帰りように包む。一軒華奢な外見とは裏腹にはきはきとしたものいい。さっきのアニータさんといい目の前のクレイアさん――クレイアといい、同じ年頃なのにしっかり自分の仕事をがんばっている。
「クレイアはお店を一人で経営しているの?」
 さっそく名前で呼ばせてもらうとまさかと返答された。元々ご両親が経営されてるお店を手伝っていて、最近は親がいない間は仕事を任されることが多くなったとのこと。でも材料の仕入れや簡単なお菓子は作れるし、品物によってはお店の商品としてショーケースに並ぶこともあるとか。それだけでも十分すごい気がする。
「すごいなあ。そんなことができるなんて」
「イオリだって医術を学ぶために遠くシラハナからここまで来たんでしょ? 怖くはなかったの?」
「怖くないって言ったら嘘になるけど。お父さんの生まれ育った場所を見てみたかったし自分のやれることを試してみたかったから」
 シラハナに医師がいないわけじゃない。だけど、せっかくなら本格的な場所で学びたかった。そう思うといてもたってもいられなくて。このあたりは父親ゆずりなのかもしれない。
「クレイア?」
「あたしにとってはそっちの方がすごいよ」
 少しだけ目を伏せられたような気がした。このときは瞳を伏せられたのか、その表情の意味がわからなくて。
「林檎のお菓子ならどこにも負けないから。またいつでも買いにきなよ」
 笑顔で見送られ、わたしとジャジャじーちゃんは店を後にした。






過去日記
2010年02月02日(火) 世界観構築における100の質問 その2
2004年02月02日(月) SHFH10−1

2012年02月01日(水) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・18

 たぶん、わたしと同じくらいの年だと思う。わたしより頭一つ分くらい小さな女の子。焦げ茶色の髪を高めの位置でひとくくりに結び、快活そうな水色の瞳がわたしとジャジャ爺ちゃんの方に向けられている。
「ジャジャ爺のお孫さん?」
「違います。わたしは――」
「ここへ来る途中で知り合ったんじゃよ。白花(シラハナ)から医術を学びにやってきたそうじゃ」
 わたしの言葉を引き継いでジャジャ爺ちゃんが説明してくれる。医術を学ぶために父親のつてをたどって東の国からやってきたこと。途中でおじいちゃんと知り合いお土産を買うためにここまでやってきたこと。
「それであたしの店を紹介してくれたってわけか」
 得心がいったようにうなずくと、ショーケースの中から焼き菓子を取り出す。それは、さっきも食べたアップルパイ。ただ、さっき食べたものとは違ってこっちは生地にまで細かくしたリンゴが混ざっていた。
「さっき食べたのと違う」
「それはそうさ。店の数だけ林檎の料理があると言ってもいいくらいだから」
 ここでわたしは店員さんから林檎にまつわる由来を聞いた。ここ、ティル・ナ・ノーグの名産が黄金林檎であること、交易がさかんであるため観光や加工業、ひいては食文化も栄えていること。
「それで、何を買ってくれるの?」
 促されて改めてショーケースの中身に視線を移す。アップルパイも美味しかったけどクッキーも捨てがたい。ちなみにジャジャじーちゃんはクッキーの詰め合わせを購入済み。話を聞けば、ここの常連さんらしい。
 わたしの国も加工業はさかんだけどほとんどが美術品や工芸品だからやっぱり違う。国が違えば文化も違うって本当なんだなあと感慨にふけっていると、ふいに右手を差し出された。
「自己紹介がまだだったね。あたしはクレイア。よろしくね」






過去日記
2010年02月01日(月) 世界観構築における100の質問 その1
2007年02月01日(木) 「EVER GREEN」11−4UP
2004年02月01日(日) 名前の由来、その2
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香澄かざな 




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