気まぐれ日記 DiaryINDEX|past|will
「皆さんのお探しの人ですよね」 晴仁が静かに尋ねる。それは人間味のない機械音声に聞こえた。山田工学の三人は動揺しているらしく声もださない。 「うちの弟に何かようですか?」 「君たちが例の?」 「ま、ま、まさか、こんなところでお会いできるとは!」 生徒の一人がやっとのことで言った。 「わが君、何故そんな男といるのですか!」 「わたくしたちと一緒に参りましょう!」 冬季にはよくわからない。しかし、噂には聞いたことがある。 魔性の男、岡崎秀介。そんな彼を愛でる会がある。そして、何かと彼は変態と変人に好かれる。 「迷惑なんだ。やめろ」 秀介がきっぱりと言ったが、聞き入れてもらえなかった。 「お前たちは帰れ。後はまかせろ」 と、春季。冬季は晴仁に行った。 「逃げよう。大丈夫」 ほとんど前を塞ぐようにしている三人の生徒の一人に思い切り体当たりをする。体は大きくないが、勢いと力で何とか一人を倒した。 「今だ!」 冬季が叫ぶ前に晴仁は走っていた。倒れた一人をちょっと踏みつけてしまったが気にせず走る。そして二人は秀介と春季の近くまでたどり着いた。 「よしよし、怪我してないか?」 と、春季。 「どうせ、春季が邪魔で仕方がない連中なんだ。君たち、帰るといい。上田先生が下で待ってる」 「わかりました」 晴仁がほっとした様子だったので、冬季も安心した。言われた通り、下の階までまた走った。 「さて、どうやって説得しようか?」 「話が聞ける相手じゃないのは百も承知だね」 などと二人の会話はすぐに止まり、ややして断末魔のような叫びが聞こえた。 「ひどい目にあったなー」 冬季はしみじみと言った。上田に近くまで送ってもらった後である。 「何が?」 「あの山田工学の人たち」 「うん、そうだね」 「結局、目的は秀介さんが目当てで、兄貴が邪魔だけどかなわないと思ったから俺を狙ったわけ?」 「うん、で、俺が弱そうに見えたんだね。一筋縄でいかない冬季に対して俺も狙った」 「……なんか、せこいな」 「せこいね。でも、しばらくは大丈夫そうだ」 「でも、きっとまたいつか来るんだろうな?」 「そうだね。そんときはまた、よろしく、ユキ」 「ああ……あっ!?」 驚いて冬季は晴仁を見た。その目はすべてを知っているが絶対に口には出さないと、そんなことを言っている。 「じゃあ、冬季。うちでジュースでも飲んでいく? 寄り道は校則違反だけどね」 「ああ、うん」 久々に『ユキ』と呼ばれて冬季は照れくさかった。晴仁がつけた愛称だった。 おしまい
それから数日間、何事もなく過ごした。山田工学の生徒たちはあれからまだ見かけていない。 「ハル、帰ろうよ」 「ああ、もう時間だね」 放課後いつものようにパソコン教室にいた晴仁に声をかけた。彼はいつもよりもうきうきとした表情を見せている。 「まだ秀介さんいるかな?」 「兄貴たちなら、そろそろ終わりそうだぞ?」 「うんじゃあ、秀介さんところ行って来よう」 「どうしたんだ? 急に」 「個人的に調べて、個人的に教えてほしいことを教えるんだよ」 手にした情報を渡したくてうずうずしていらしく、笑みがこぼれている。しかし、そうそう世の中はうまくいかない。教室を出れば、山田工学の生徒三人が待ち構えていた。 「中野春季だな、いや、弟だな」 生徒の一人が尋ねる。 「ハル、逃げて」 「なんだい、ちょうどいいじゃないか冬季。ぜひ本人たちの口から理由を聞かせてもらおうよ」 「何言ってんだよ、ハル!」 「当事者もいるんだからさ」 さらにこちらにやってくる人影がある。春季と秀介だった。
「即答!?」 「せめて、理由を教えてくれ!」 双子とやり取りしている間に冬季は山田工学の生徒たちをまじまじと見る。あの時の生徒だろうか?良く分からなかった。 『私たちに魅力があるのは認める。でも、家の前で待ち伏せするへたれ根性は気に入らない! すぐ立ち去らないのなら私たちが直々追いだしてやる!』 「姉ちゃんズ、ちょっと待って!」 冬季の止める間もなく、山田工学の生徒たちは双子のビンタをくらい、その結果、三人は逃げかえって行った。 「と、言うわけで冬季、次会った時は容赦しなくていいからね」 翌日そのことを晴仁に話した。彼は笑ってはいた。 「でも、偶然とは考えられないからね。あの時の人たちなら本当にお姉さんたちが目当てだったのかなぁ?」 「それ聞く前に姉ちゃんズに追い払われたからな」 「そっか。良かった。こっちから聞くことないからね」 「え?」 「わざわざ危険を冒すことないってことさ。俺がすることじゃないし、冬季がすることじゃない」 「それも窓口だから?」 「そう、わかってきた?」 意味ありげに晴仁は笑った。
冬季は晴仁を家に送り届けてから家路を急いだ。近いとはいえ油断はしていない。速足で歩きながらふと秀介のことが気になった。あまりにもタイミングがいいので実は何か知っているのかもしれないと考えた。 家の前に人影がある。あの山田工学の生徒だった。 「人んちの前で……」 仕方がないので裏口に回ろうとしたが、そこにも一人いる。こちらには気づいていない。しかし、空腹を覚え始めているので早く家に入りたい。 「あれ冬季何やってんの?」 声をかけたのは夏季と秋季。冬季の双子の姉である。 「山田工学の生徒だよね。うちに何か用かしら?」 「さあ?」 「あれがいるからこんなところで隠れていたの?」 「そうだよ。悪いか」 「正しい判断だと思うわ。中学生が高校生にかなうはずないもの」 そう言って、三人は家の玄関へ向かった。 「何か御用かしら?」 と夏季。 「今なら話だけ聞いてあげるわよ」 と秋季。 「夏季さん!秋季さん!」 突然山田工学の生徒が叫んだ。さすがの双子も驚いた。 「ずっと憧れてました! 我々とお付き合いください!」 『……お断りします!』 双子は揃って言った。 『残念ながら、タイプじゃありませんので、お引き取りください!』
でも前回より男の子のクオリティはあがりました。まだ二頭身だけど。 横断歩道でくしとコンパクトを持っている女の子。こんなところで髪を整えなくても!とか、隣の女の子の襟が鱗柄とか、男の子の適当さとか、どこをとってもつっこみが出来る。 すごい看板である。
「急に悪いね」 秀介が言った。 「冬季君も一緒に聞いてくれるかい? 実は、君の兄貴の春季のことなんだけどな。最近誰かに狙われているらしいんだ」 『え?』 「びっくりすることでもないだろう? だいたいあいつはどこかしら恨みを買われているんだから」 「ああ、まあ」 的を得ているので否定はできなかった。冬季は思うのだが、秀介は間違いなく春季の被害者の一人なのだ。そして、春季は秀介の被害者の一人でもある。 「でね春季を狙っているのが誰なのか知っていたら教えてほしい」 「……わかりました。依頼ですよね?」 晴仁が確認するように尋ねた。 「うーん、依頼というか、個人的なものだね」 「個人的?」 「うん、個人的」 「わかりました」 晴仁が何を分かったのか冬季にはわからなかった。 「じゃあ、よろしく。ここから二人とも近いよね?気をつけて帰ってね」 「はい、ありがとうございます」 「ハル、家まで送るよ」 冬季は晴仁を送ることにする。 「ハル、さっき何がわかったんだ?」 「ええとね、組織とは関係なく、俺たちあくまで『個人的に』知っていることを教えてほしかったんだよ」 「シンクタンクとは、関係なく?」 「そう。それに俺はあくまで窓口だから」
「なんで、ハルがそう言うんだ?」 「それはね、君のお兄さんが原因なんだよ」 「兄貴が? まあ、そうだろうな」 冬季は春季の悪行もろもろを知っている。山田工学の生徒に、例えば恨まれているならそれ相応のことをしたのだろう、晴仁が困ったような顔をしていたので冬季はそれ以上聞けなかったがおおよそ想像がつく。プレイボーイだった兄。しかしどういうわけかそこから男色の道に走った変態兄。だから捨てられた女と身近な関係が山田工学にいるのだろう。 「だから冬季は逃げてね。あいつらは、山田工学の生徒は何をするかわからない。まさか校舎の中にまで入ってくると思わなかったから」 「わかったって。心配するなよ。俺、逃げ足は速いから」 逃げ足でなくても速い自信はある。それを一番良く知っている晴仁にそう言って安心させた。 ある日の放課後、帰る時に都合悪く誰もいなかった。上田も会議があると抜け出せなかったのだ。そんな折に岡崎秀介が通りかかった。 「あれ? お前たち帰らないのか?」 「岡崎さん」 すごい都合のいいところで来たと冬季は思った。 「岡崎さん! 実は……」 「ああ、そうだ。ちょっと窓口の野田君に話があるんだ。一緒にそこまで来てくれるかな?」 秀介はそう言ってにこやかに笑った。冬季は首をかしげる。ちょっと前の秀介はどこか暗く何かに悩んでいる様子だったのだが、今はそれが吹っ切れたように見える。 「君も、ね。冬季君」 「あ……はい」 冬季にとっては複雑だった。岡崎秀介は兄の思い人である。兄を男色の道に走らせた張本人。だが、秀介が悪いわけじゃないことは確かである。兄が一番迷惑かけている人なのだ。 「じゃあ、行こうか。ああ、そうそう家まで送って行くよ。その間に話が済むからね」
それから一週間、何事もなく過ごした。晴仁は相変わらず窓口をしていた。遅くなる時は冬季は兄である春季、姉である夏季と秋季とともに帰るようにしていた。本当に誰もいないときは上田を頼った。 『シンクタンク』の一員となり、なんとなくだがメンバーがわかったような気がする。冬季の憶測では上田と兄である春季、そして岡崎兄弟。クラスメイトの高山貴乃も怪しい気がする。 休みの日に晴仁の家へ行ってそんな話をした。 「なんで他のメンバーのことを知らないんだ?」 聞きたかったのはもっとほかにもあったが、とりあえず改めて尋ねた。 「シンクタンクはメンバー同士でも明かさないんだよ。だって誰に狙われているかわからないからね。危険をなるべく排除しているんだ。結局動いているのは田学生徒だからね」 「ふうん」 「俺もよくわからないけれど田学の『シンクタンク』というのは昔いろいろあっていろいろな組織から狙われているらしんだ」 「いろいろって、本当にいろいろあったんだな」 「うん。何故か日本のトップシークレットも知れる組織として名が上がっている。実際は学校内の範囲でしか活動していないんだけどね」 「……本当になんでなんだ?」 「でも、学校という組織である以上、他の学校にも影響がある。この前の山田工学だけど、冬季のお兄さんが……いや、やめとくよ」 「?」 「また山田工学が来たら冬季はとりあえず逃げといて」
「おやおや、君たち。廊下は走らない」 「上田先生、それどころじゃない」 さすがの他校生も教師(保健医だが)の登場におじけついた。 「おやおや、君たちはどこの学校の生徒かな。ここは部外者は入っちゃいけないよ」 上田はにこやかだが、どこかするどく他校生たちを見つめた。 「すみません。僕たちは中野春季さんに用事がありまして」 他校生の一人が言った。 「そうかい。でもここは中等部の校舎だから中野春季はいないよ」 「はい?」 「中野春季は大学部だ。どちらにせよ、部外者は入っちゃいけない。さ、早く出て行きなさい」 「……わかりました」 三人は大人しく学校を出て行く。上田はその姿を見てから、冬季と晴仁を見た。 「さて、二人とも。今日は俺が送って行こう。ちょっと待っててね」 晴仁はパソコン教室のカギを戻して、二人で上田を待った。ややして上田が職員室から出てきて、二人を連れて職員玄関から出ることにする。 「君たち、無事でよかったよ」 「あの他校生はなんですか?」 晴仁が尋ねる。 「あの子らは山田工学の生徒だね」 「山田工学……なんでまた」 山田工学は山田工業高等学校の略称。 「どうにも中野春季はどこでも恨みを買っているようだね」 「兄貴が?」 「……中野くんが目当てだったようだよ」 「俺が?」 「末っ子なら、どうにかなるって思ったのかな?」 「いずれにしても、他校生にやすやすと入られるのはまずいね。今校長先生に伝えて来たから、しばらくは君たち、誰かと一緒に帰りなさい」 伝えたいことは分かった。とにかく頭数多くして下校すること。 「わかりました」
「そりゃ人違いだ」 冬季は言ったが他校生の三人には通じなかった。 「ウソをつくな」 「我々は知っているぞ」 「大人しく付いてくるんだ。もう一人のそいつもだ」 冬季はもう会話をすることをやめた。話が通じない者と会話するのは疲れる。 「ウソじゃないんだけどなぁ。どうする、ハル?」 「付いていくことはないよ、逃げよう」 「わかった」 二人はくるっと回れ右をして走った。向かうは職員室。カギを置いて助けを求める。廊下は走ってはいけないという校則があるが、非常事態なのだから構わない。 「ま、待てっ!」 三人の他校生も追ってくる。 「まずいな」 冬季はつぶやいた。意外にも三人のスピードが速い。このままでは晴仁が追いつかれてしまう。しかし、前方に人影が見えた。普段は高等部で保健医をしている上田先生だった。
今頃マッサンの最終週を見る。そして、あと2話。 冬季は時間をつぶすために今日の予定の部活を除いた。他校との練習試合でなくても彼は重宝される。彼のような強敵を相手にすることで今後の作戦や対策を考えることが出来るので、彼が来る日はいつも試合をする。それ以前に彼は練習は好きじゃないのでその辺が考慮されているのかもしれない。 適度に運動出来てそのままさようならをして冬季はパソコン教室を覗いた。晴仁はパソコンに何か打ち込んでいた。 「あれ? もうそんな時間?」 冬季に気付いた晴仁が振り向いた。首を左右に傾けたり、腕を伸ばしたりと軽くストレッチする。 「まだ終わってなかったのか?」 「うん、もうちょっと」 「出てる?」 「いいよ」 企業秘密が多いシンクタンクだから、打ち込んでいる内容は見られたらまずいだろう。 「暗号で打っているから大丈夫。ほら、これ学校のだから、万が一ってことがあるからね」 「ああ、そうか」 「で、さ。冬季は何の用?」 「え、えっと。あ、依頼じゃないからな」 「ふーん」 パソコン画面をのぞくと簡単な単語が並んでいる。もちろん何を伝えているかはよく分からない。 「もしかして、自分も『シンクタンク』に入ったとか?」 「え……?」 「……冗談だよ。冬季のことだから、新しい部活のことかな?」 「あ、ああ。新しい部活ってか、サッカー部の部長なんだけどさ」 冬季も晴仁の機転がわかった。ここは学校、まだ誰かがいるかもしれない。誰もいないのを知っているから晴仁も鎌をかけたのかもしれない。 「さて、終わり。お待たせ、帰ろ」 「おう」 パソコンの電源を切り、教室の施錠して廊下に出れば、怪しい生徒三人いた。 「参ったな、急な依頼人かな?」 晴仁は落ち着いて言った。 「ハル、こいつらここの生徒じゃないだろ?」 「見ればわかるよ。制服違うし」 怪しい他校生の一人が言った。 「中野春季、一緒に来てもらおう」
放課後、晴仁がパソコン教室へ向かうときはだいたいシンクタンクへの依頼がある時である。不思議なことにシンクタンクの窓口ということはクラスの皆が知っていることではない。このくらいの年齢ならば質問攻めにあうはずだが、誰もそんなことを彼に尋ねてくることはない。 「なーに、冬季?」 「いや、クラスのやつらって来ないよな?」 その割に、小学部から一年生の女の子から依頼が来たことがある。内容は教えてもらえない。 「うん、だって、気安く頼めるものじゃないもの」 ちなみに晴仁にも他の誰が『シンクタンク』に所属しているのかはわからないと聞いた。 「危険防止だってさ」 「なあ、ハル」 「んー?」 「今日終わったらさー、ジュースでもおごるから俺の話聞いてくれるか?」 「いいよー。仕事の依頼? 仕事終わってからね」 晴仁は軽く答えた。
次の日の放課後、すべての部活を断り、理事長室へ向かった。そこにはもちろん田中学院理事長、田中玲治がデスクに着いている。 「君が、中等部2年、中野冬季くんだね」 「はいっ」 そう尋ねられて、返事することしかできなかった。 「田中学院の『シンクタンク』のことは知っているね」 「組織があること、だけは」 冬季は正直に言った。その組織があることしか知らない。 「それで十分です。君の任務は野田晴仁の護衛だけ。それ以上は知る必要はありません。理由は『シンクタンク』の窓口を務めるというだけで、敵がいるんだよ。だから君が野田君を護衛するだけ」 「俺に、そんなことが出来るんですか?」 「謙遜することはないよ。遠慮はいらないから、野田晴仁を狙う者がいたならば好きなようにやりなさい」 「……わかりました」 本当のところ、よくわかってない。しかしそんな危険なことを何故一介の生徒である晴仁がやることになったのだろうか、なら自分はそんな晴仁を守ろうと思った。 「ただし、君がシンクタンクであることは君と私と君のご両親だけ。君がシンクタンクであることは、兄弟にも誰にも、特に野田君には言ってはいけない」 「……わかりました」 「よろしい。他に質問は?」 「なんで、晴仁が窓口なんですか?」 「……なるほど、中等部の野田君が何故窓口なのか気になるかね? 彼は窓口にすぎないのだよ。だが、彼の頭脳は田中学院のすべてを網羅出来る。ゆえに彼が一番適任というだけなんだ。これでいいかね?」 「はい、ありがとうございます」 「こちらこそ、承諾してくれて助かるよ。では、さがりなさい」 理事長は終始落ち着いていて、にこやかな対応だった。冬季は緊張していて結局よくわからないままだった。それでも、役目は一つ、晴仁を守ること。
野田晴仁は小学部1年から一緒のクラスだった。そのころは何も違和感を覚えたことはなかった。二人ともとても気が合い仲良く遊び、時にはけんかもした。それが中等部に入ってから変わった。冬季はメキメキと身体能力が上がり、晴仁はどんどん成績が伸びた。 「お前って、ガリベンだったっけ?」 「そうでもないよ」 「そうだよな」 「冬季はさ、中野家の血だよね。お姉さんやお兄さんもすごかったって聞いたよ」 「誰に?」 「うーん、噂」 冬季が最近になってわかったのは、晴仁が正式に『シンクタンク』の窓口になったことだった。田中学院のマル秘組織『シンクタンク』。学院内のあらゆることを網羅し、あらゆる問題を解決する組織。中には『シンクタンク』という組織すら知らずに卒業する生徒もいると言われるくらい知られることのない裏組織。その公になってよいというのが野田晴仁だった。 その数日後だった。冬季に封筒が渡った。それは保護者宛てで帰ってから母親に渡したら、一枚返された。 「ふゆちゃん宛てだよ」 「え?」 「さて今日はお赤飯ね。それから、それに書いてある通り、誰にも言っちゃだめよ」 手紙には『中野冬季 「シンクタンク」に属することを任命する 明日の放課後理事長室へ向かうこと』 と書かれていた。もう一枚は保護者への承諾書らしい。それも両親の署名が必要のようだ。 「かあちゃん、コレ……」 「書いてある通りだね。そのことは、はるちゃんにもなっちゃんにもあきちゃんにも言っちゃいけない。もちろん、はるくんにも言っちゃダメだからね」 中野四季(しき)、四兄弟の母にして、田中学院の卒業生である。
って思うくらい寒かった。 田中学院 中等部2年 中野冬季 田中学院でも、中野兄弟を知らないものは少ない。中野兄弟は、大学部に所属する長男中野春季、高等部に長女、次女である中野夏季と秋季、中等部に次男中野冬季がいるが、いずれも他学年どころか学院全体で名を知らしめている。今回は末っ子の冬季の話である。 中野冬季は中等部の運動部では引っ張りだこだった。類まれなる運動能力に長けるため各部に助っ人として活躍している。そして一つの部偏ることはなかった。なぜならばそのことにより他の部から羨望と嫉妬の目を向けられるからだった。冬季にとってはそれが嫌であるため各部まんべんなく助っ人として参加する。今日は野球部、明日はテニス部、あさっては水泳部。練習試合などが重なった時は部長同士がじゃんけんなどして彼を勝ち取る。彼にとっては運動は好きだが練習は好きじゃないので好都合だった。 もう一つ部活に入らない好都合は野田晴仁という存在だった。 野田晴仁は冬季の幼馴染みであり、親友であり、悪友である。
何か出来たらいいな。
草うららか
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