「硝子の月」
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2002年02月05日(火) <始動> 瀬生曲、黒乃

 次に目が覚めた時には、昨夜と同じ宿屋の天井が見えた。
「…………?」
 頭がはっきりしない。ほとんど無意識のうちに枕元の相棒を確認する。
   ぴぃ
 優しく鳴いて、アニスはティオの頬に頭を擦り寄せる。
「よかった、無事か……」
 何気なくそう呟いてから、呟いた理由を思い出す。確か自分は死を覚悟したはずなのだが、どうやら生きているらしい。あの後何があったのかは思い出せない。
   ぴぃ
「アニス、ティオは起きた……みたいね」
 ルリハヤブサに語りかけながら部屋に入った少女は、少年の様子を見て安堵の溜息を漏らした。


「…ルウファ? っ…」
 ティオが身を起こしかけると、脇腹にひきつるような激痛が走った。
「ほらほら、無理しちゃ駄目じゃない。もう、2〜3日は安静にしないと…」
 と、はだけた毛布をかけ直すルウファ。
  ぴぃ。
 アニスが相槌を打つように一声鳴いた。
「――俺は…一体?」
 起きがけの強烈な痛みのおかげで、思考がはっきりしてきた。
不意に謎の少年と機械の昆虫――熱線に射られた瞬間までが鮮明にフラッシュバックする。
「そうだ! あっんの子供ガキっ…」
「子供?」
 怪訝な顔のルウファ。
「だから! あの眼鏡のくそガキだよ! いきなり現れて、わけわかんねえ機械で俺を殺そうとした…っ」
 ティオは勢いよくしゃべり出して――またも顔を苦しげに歪めつつ、布団でもだえた。
「凝りないわねえ…まあ、その元気なら大丈夫か」
 と、ルウファは苦笑する。
「何があったか知らないけど、きっちり手当てしてくれた謎の親切さんに感謝しなさいよ。
 それと、徹夜で看病してあげた、この私にもね」


紗月 護 |MAILHomePage

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