だだの日記
沖縄といえばリゾートとか南国とか、そんなイメージがあるが、 僕にとっては、とても敷居の高い場所。 思い入れが深い分、安易な気持ちでは行ってはいけないと思っていた。
だけど、ここ数年仕事で沖縄に行ったり、文化を学んだりしてきて 少しずつ気持ちに折り合いをつけることができていた。 そこでこの前の年末年始は、自転車でのキャンプツーリングを決行した。
今回は、9日間という滞在期間中、一番意義深かった日のことを記そうかと思う。
それは旅を続けて8日目の1月5日のこと。 この日は憧れでもあった3つの聖地を訪れることができた。 とても重要な日になることが分かってたので、 朝自転車を漕ぎ出してからしばらく、心臓が高鳴っていたのを、 昨日のことのように覚えている。
まず1つ目が久高島。 沖縄という信仰の強い土地の中でももっとも重要な場所で、 祖神アマミキヨが降り立ち、国づくりを始めた島。 そして、12年に一度午年に行われる大祭・イザイホーの島でもある。 (ただし、イザイホーは過疎などを理由に1978年以降は実施されておらず 存続が危ぶまれている)
久高島、というよりイザイホーのことを最初に知ったのは やはり短編小説「眠る女」。 あるいは、イザイホーを意識した祭礼が出てくる「マシアス・ギリの失脚」だったろうか。 こんな祭があるんだなと思ったものだった。 ちょうどその頃、集英社新書から「日本の魂の原郷 沖縄久高島」という本が出版され、 難しい内容ながら興味深く読ませてもらった。
…という経緯があったものの、実は直前まで行こうかどうか迷っていた。 フェリーは時間が限られているから、行って帰ってきたら半日がかり。 時間に余裕がない中で行くよりかは、また機会を作って行こうかと。 ひとまず港まで行き、出航時間を確認したが、それでも迷っていた。 他の行き先とこの島とを天秤にかけた時、今行くべきはこっちの方だなと踏ん切りがついて ようやく切符を購入したのは、フェリーが出る10分前のことだった。
約20分の航行後、さっそく自転車という機動力を駆使。 全体像を把握するためいったん一番端まで行き、そこからのんびりと巡る。 巡るといっても、なんにもない島だけど。 御嶽とか広場とかでも、特に看板があるわけではないので少々分かりづらい。 あやうく見過ごしてしまう箇所も多々あった。 でも、ここが神の島であり、かつてイザイホーが行われていたことを、 静かに感じ取ることができた。
ただ、ある砂浜に出た時、若い女性が一人、座り込んで物思いに耽っていた。 こういう島で、こういうゆるい空気が流れているなかで、 本当にいい過ごし方をしているのは、彼女の方だなと、 時間の都合で慌ただしく回ってしまった自分をうらめしく感じた。 正味2時間ほどの滞在だったが、一日がかりで訪れてもいいと思った。
次に向かったのは斎場御嶽(せーふぁうたき)。 世界遺産にも登録されているので、割と知名度はあるのかと思う。 ここも琉球王国にとっては、最高の聖地。 そしてやはり、彼の地に在住されていたあの作家の著作によって、 僕は知ることとなった。
沖縄の人にとって「御嶽」がどのようなものなのか、 ヤマトンチュの僕には分かりかねる部分もあるが、 今でも東御廻り(あがりうまーい)に代表される聖地巡拝が行われているそうなので その存在は推して知るべし。
薄暗い小道を歩き、三個理(さんぐーい)と呼ばれる拝所に辿り着く。 巨大な鍾乳石が並ぶ、不思議な空間だ。 奥からは先ほどの久高島が望める。 ちょうど他の観光客が途絶えた時間帯だったのでこの空間を独り占め。 全体が厳かな雰囲気に包まれていて、 目を閉じれば、なにかを感じれそうな気がした。
そして、最後がアマバル。 文字通り「アマバルの自然誌」の舞台になったところ。 もちろん今回の旅で最重要ポイントであることは言うまでもない。 (ミーハーと指摘されれば、それまでだけどさ)
もっとも、アマバルという地名は、地図のどこにも載っていないので、 おおよその見当をつけざるを得ない。 しかし、そこは読図精神旺盛なだだくんのこと。 今までの記述を読んで、ある程度絞り込むのに成功した(と思う)。
現在、フランス在住の池澤さんが、5年ほどお住まいになられた場所。 「静かな大地」などの名著が書かれた場所。 アマバルに来て、僕がなにかした訳ではないのだが、 ただただ、「ここなんだぁ」という感慨深さでいっぱいだった。 昨年は2回ご本人とお会いする機会があったが、 これまで以上に作品を身近に感じることができそうだ。
長かった旅も終盤を迎え、明日は大阪に帰るという日であったが、 これで決して終わりではなく、 むしろ始まりなのだという気がしてならなかった。 念願だった場所を訪れ、めでたしめでたしではなく、 この経験をどのように活かして、どう行動に移していくのか。 それこそがまさに重要なのではないかと。
僕の旅は、まだまだ終わらない。
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