ちゃんちゃん☆のショート創作

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夏の色【鳴門】
2014年08月29日(金)

ガイ班、ネジ視点

※「みんなでごはんを食べようか」と世界観が繋がってます。時間的には「みんなで〜」の前に当たります。ネジもまだ中忍になったばかり。


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 カシャン。


「あーっ、落ちちゃった」
「テンテン、危ないから触るな。手を切るぞ」


 夏、ガイの部屋で。
 定例のカレーパーティー・・・はさすがに暑いと、それでも麺つゆだけは手作りの「素麺パーティ」をガイ班で行なう、準備をしていた時の話である。


 素麺を茹でてくれたテンテンが、さすがに汗をかいたからと、窓際で『自然のクーラー』に当たって一息ついていたのだが。

 別に彼女が触ったわけではない。単なる偶然であろう、軒先に吊るされていた風鈴がいきなり落ちたのだ。彼女が気持ちよく風に吹かれていた、そのタイミングで。

 ガラスで出来たそれは、石畳の床に落ちてはひとたまりもない。


「ああ、やっぱり紐が切れたか。いい加減古くなっていたからな」


 弟子を制し、自分で残骸を拾い上げたガイは、あまり深刻な表情ではない。寿命が来たことへの感慨こそ、ありはするが。

 
「テンテン、気にしなくていいぞ。実はこの間自分でもぶつけててな。少しひび割れてたから、いつかはこうなる運命だったんだ」
「えー、でも、早く気づいてたら、落ちる寸前にうまく掴めたかもしれないのに」
「珍しいな、テンテン。リーみたいなことを言うじゃないか」
「でも僕だと、かえってその弾みで握りつぶしていたかもしれませんけど」
「つまり、どっちみち壊れていたということだ。自然の摂理だな、うむ」
「・・・。ひび割れていたんだったら、その時点で新しいのと交換した方が良かったんじゃないのか?」


 ───いずれ壊れていたんだから気に病むな。
どっちみちテンテンのせいではないのだし───。


 そんな遠まわしの師弟の心遣いを、ネジも分からないはずはない。だから、自分まで同じような言葉をかけてもわざとらしいと、いつもの冷静な持論をぶつけたのだが。


「う・・・む。いつかは割れるんだったら、それまでは吊るしておきたくてな。
この季節になるといつも出してきていた、亡くなった親父のお気に入りだったんだ」





 ガイの家には、古ぼけた調度品が結構ある。
 いつもがオーバーアクションの上に粗忽で、割れ物をしょっちゅう壊すイメージがある師匠の、物持ちの良さがネジには意外だったのだが。
 なるほど。亡き親を偲んで、丁寧に扱っていたとすれば納得だ。


 一方、庇われる格好になったテンテンは、しばし名残惜しそうに風鈴の欠片を見下ろしている。


「でもあたしこれ、レトロな柄で結構気に入っていたんですよねー。時々風鈴屋さんが売りに来てるの見てても、こういう味のある感じの、あんまりなくって」
「それは気の毒だったな。何せ俺が物心ついた時には、もう軒先でぶら下がっていた代物だ、もうさすがに時代遅れなんだろう」
「・・・つまり結果的に、ガイは自分も時代遅れだと言っているわけか」
「ほほう、うまいことを言うじゃないかね、ネジ。ご褒美に山葵をサービスしてやろう、ほーらてんこ盛り」
「やめろ。子供か、あんたは」
「ちょっとお、やめてよ二人とも」
「何だか楽しそうにも見えますね」


 そろそろみんなで食べましょうよー、と誘うリーの声に促されて、残る3人は食卓へつこうとしたのだが。


「・・・ああ、いい風が来たな」


 すうっ、と忍び込んだ涼風におかっぱ髪をくすぐられ、ガイが思わず目を閉じる。


 リィ・・・ン・・・。


 何故だろう。
 その時ネジには、聞こえるはずのない、あの壊れた風鈴が奏でた音色が聞こえた、ような気がした。


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 古いながらも、どこか温かさを感じられる家屋。
 その縁側で、口ばかりか床も服も真っ赤にしながら、満面の笑みを浮かべてスイカにかぶりついている少年。
 そしてその傍らで、息子の食欲に頼もしさを感じているのか、楽しそうに体を揺すっている父親。微笑む母親。


 リィ・・・ン・・・。


 彼らを見守るように、あのレトロな柄の風鈴が鳴らすのは、涼しげな音。



 何となく、想像がつく。
 あの暑苦しくも情に厚い上司が、さぞや両親に愛されて育ったのだろう、と言うことは。
 そして、その両親が亡くなった際は、さぞや人目をはばからず号泣したのだろう、と言うことも。

 かと思えばガイには、意外なくらい気持ちの切り替えが早いところもある。
 無論、変にこだわっていては、今日まで生き残って来られなかったに違いなく、彼がそれだけの修羅場と激戦を経験してきた、猛者の証だと分かってはいるのだが。

 その、ある意味でのそっけなさが、時々ネジを落ち着かない気分にさせる。

 人を責めろと言うのではない。
 もっと惜しんで涙したところで、誰も咎めも嘲笑もしないのに。
 あの男は『そういう奴』だと、皆が分かっているのだから。


 チリ・・・チリチリーン・・・。


 そんな折り。
 街に出ていたネジはたまたま、風鈴売りの行商を見かけた。
 道端で店を広げ、風鈴をぶら下げて見せている光景は、この時期の風物詩と言っていい。既に何人かは足を止め、商品を眺めている。

 それは一人でだったり、カップルであったり、はたまた親子であったりはするが、誰もが笑顔と共に。


 ───ガイの父親とやらも、こうやって風鈴を選んでいたりしたのだろうか。
 いやあるいは、息子が生まれる前に、夫婦で眺めていたのかもしれない。


 リ・・・リーーン・・・。


 風鈴の音色に誘われ、思わず店へと足を向けていたネジだったが。


「ネジじゃないですか。奇遇ですね」


 そこに立っていたマンセル仲間がにこやかに声をかけてきたので、反射的に回れ右をしたくなった。


「? どうしたんですか?」
「・・・いや」


 別に、リーが風鈴を眺めていて悪いわけではない。むしろ、修行馬鹿と揶揄されるこいつに、風流を愛でる感性があったことを喜んでやるべきであろう。
 そして、自分が風鈴を見に来たところで、何か支障があるわけでもない。

 ・・・が。


「ああ、ひょっとしてネジ、ガイ先生にこの間壊れた風鈴の代わりを、プレゼントしようとしてます?」


 ・・・こう言う事を何の臆面もなく口にする存在と一緒、という事実が、ネジに居心地の悪さを感じさせる。


 ───どうしてこいつは直球なんだ。あの日の、テンテンへの遠まわしな配慮は、どうして自分には発揮されないのか。


 もっとも、過日の出来事は仲間に罪悪感を残さないためであって、今日の場合はむしろ、先生を気遣う弟子の好意。
 それを隠す必要がどこにある、とリーは思っているに違いない。

 
「そ、そうじゃない。もうこんな季節なんだな、と思って・・・」
「良かったー。僕一人じゃ色々悩んじゃって」
「俺の話を聞け」
「良いのはあるんですが、あまり値の張るものだとかえって、先生に気を遣わせてしまうでしょう? ネジ、ここはひとつ二人で折半しませんか?」
「・・・・・・」


 かと思えば、ちゃんと同僚にも気を回すところもあって。
 ここで彼の誘いに乗れば、きっと一人で買うよりはずっと気恥ずかしくない。


「あー、何だ、二人とも来てたんだ。
ねえねえ、ガイ先生に風鈴、お金出し合って買わない?」


 そのうち、テンテンまでが風鈴の音色に誘われたのか現れて、ネジにこれ以上ない口実を作ってくれたのだった。


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 三人で選んだ風鈴を、割れないようにきちんと梱包してもらい、ガイの家へ向かう。元々今日も食事会に呼ばれているので、その時に渡そうとの腹積もりだ。

 テンテンは包みを大事に、両手で抱えながらゆっくりと歩く。それを眺めつつやはり歩調を緩めていたネジだったが、ふと、視線の端に引っかかってくるものがあった。


 緑地の球体に、ギザギサな黒い線。
 水を張った水の中で、それは涼しげに浮いていて。


「・・・リー、テンテン、西瓜は好きか?」


 一応、同行者の好みを聞いてから。
 でないと、下手をすればあの上司と2人で黙々、と消費する羽目に陥りそうで、怖い。

 ネジの問いかけに、リーもテンテンもかなり驚いた表情になった。


「え、ネジもスイカ、好きなんですか? 僕は大好きですよ」
「あたしも好きだけど・・・珍しいわね、わざわざあんたが果物買って行くなんて」
「・・・西瓜は夏の風物詩だ。お前らと折半したおかげで、そのくらいの余裕はある」


 確かに嫌いなら、さすがに自分で買って行こうとはしなかっただろう。
 あの甘さと瑞々しさを好いていて、それを皆で分かち合うのも悪くない、と思う自分がいる。

 それに・・・。


「俺が食べるために買う場合は、どうしても小玉を選ぶしかないからな。
でも四人もいれば、それなりの大きさの西瓜を買うことが出来る。
・・・それがちょっと、嬉しい気がするんだ。子供の時以来、だから」





 ───今考えるに。
 自分の子供時代とやらは、父親が亡くなったあの日、既に終わりを遂げた───ネジはそう、無意識ながら思っていたらしい。
 それは紛れもない事実だ。少なくとも中忍ともなった己は、子供ではない。

 が、自らを律する余り、いつしか四季を楽しむ余裕すら、心の中から閉め出していた気がする。
 それは頑なな幼子と同じだ。口先や技術ばかりが先走り、精神の成長が止まってしまった、歪な子供。


 ガイは───あの、熱血と青春とやらを体現した男は、違う。
 良く笑い、良く泣き、あまりお目にはかからないけれど時々は、怒り。
 まるでいつまでも子供のような言動を繰り返しながらも、体と心をこつこつと鍛え上げ、まっすぐ伸びやかに育った大人、だ。

 そんな彼に何となく引きずられてか、体のどこか奥のところに忘れ去られていた何かが時々、ひょっこりと現れることがある。

 知り合った当初はともかく、今のネジはそれを、あまり不愉快だとは感じない。戸惑いはするけれど。


 ───父さん・・・。


 壊れたあの風鈴にガイが、思い入れがあったように。
 ネジにも、切なさが混ざった懐かしい夏の思い出が、ある。

 尊敬し、大好きだった父親と共に過ごした、幼少の頃。そんなにも長い年月は過ごしていないはずだが、その中の数少ない夏の日、大玉の西瓜を家族と食した楽しい記憶は、確かにあった。

 だから。
 幼きあの日のように、大玉の西瓜を皆で切り分けて食べるのが、素直に喜ばしいと思う。



 ちょっとだけ笑みを浮かべながらそう言うと、連れの二人は相当にびっくりしていた。


「・・・何だ? 俺がそう思うのはおかしいか?」
「え、いえいえ、そういうわけじゃありませんよ、ネジ。
ただ、なんて言うか、その・・・ネジが嬉しい、とかそういう言葉を使うのが、珍しい気がしちゃって・・・」
「え?」
「そうそう、あたしもそう思った。どっちかって言うとネジって、否定的な言葉使う傾向あるじゃない」
「ひ、否定的?」


 同僚からの鋭い指摘に、戸惑いを隠しきれないネジである。
 そして、リーとテンテンはこの時とばかり、無遠慮だ。・・・いつものことだが。


「俺はそんなに否定的な言葉ばかり、使っていたか?」
「ええ」
「うん。素直じゃないなー、って、いつも思ってた」
「・・・・・・・・。そんなつもりはなかったんだが・・・・・」


 無自覚な心の狭さにネジがショックを受けていると、しばらくの間ぽかん、としていたリーとテンテンはいきなり大笑いを始めた。


「ね、ね、リー。今のネジ、見た? 見た?」
「見ましたよ、テンテン。この目でしっかりと」
「何か、下忍の時より子供っぽい顔してなかった〜? 可愛い〜v」
「ええ。がーん、とか、ぼーぜん、とかの擬音が聞こえてきそうでした」
「そうそう。何かさ。いつもは『俺は何でも知ってる』って顔してるのにさ、実は自分のことも知らなかった、ってオチなのねー」

「・・・悪かったな・・・。
いつまでもそうやってろ。その代わり、スイカは買わないからな」


 大人げないと思いながらも、気恥ずかしさを怒りでごまかし、先を急ぐネジ。


「うわー。西瓜を人質にとるなんで、ネジ、ずる〜い!」
「待ってくださいよ〜。別に僕たち、ネジのこと馬鹿にしてるんじゃないのに〜」
「そうよ〜。それこそ嬉しいんだってば、あんたがあたしたちに心許してくれてるみたいでさ〜」


 それでも。
 残してきた仲間二人が、笑いながら追いかけてくるのを、ネジは決して疑わないのだった。



「あー、だが失敗したな。ひょっとしてガイも、自分で買って冷やしていると思わないか?」
「ありえますね。ガイ先生、好きそうですもん。かぶりますかね?」
「大丈夫よ。まだまだ暑いんだし、また明日もスイカ食べに、ガイ先生のところへ遊びに行けばいいじゃない」


◆終わり◆


残暑お見舞い申し上げます


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※こういう話書いておいてなんですが、今年の夏、まだスイカ食べてません。夏休み終わる前に、一度は食べたいなー。

 それにしても、ちゃんちゃん☆ はどうも、夏と西瓜、ってセットで考えるみたいですねー。ここには載せてないけど、以前書いたモン▲ーターンのSSでも、ジープに乗った蒲生さんが西瓜持って、榎木さん家に残暑見舞いに押しかける、ってのがあったから。

 実はこれ本当は、カカシと一緒にいる時にガイ本人が、連想するはずでした。縁側で、かつてのマイト父子が、スイカを食べてるシーン。が、その話を描く機会がないまま、ついネジ視点で書いてみたら思いもかけずハマったという・・・。ゴメン、カカシ。カカシの出番がなくなったのは、ち☆ の連想力のなさが原因だ★

 ちなみに当初、タイトルは「夏の音」でした。けどこれだと風鈴だけを指すこととなるからちょっとなあ、と「色」にしました。風には色がないけど、まあその辺はニュアンスで。「色」は「音色」の意味も込めてます。念のため。




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