moonshine  エミ




2007年06月30日(土)  御旗、楯無も御照覧あれ。(其弐)

(前回より続いてます。)
まったく、恐ろしい事態になったものだ。もはや私には、息抜きなんて必要なかった。普段自分ののんびりした余剰時間を支えている、雑誌や本を読んだり音楽を聴いたりすることもすっかり忘れていた。気がつけばいつも、心はそこに向かっている。これではまるで、恋ではないですか。是は、如何なることか。

①もともと、熱しやすい性分である。

子どもの頃からそうだった。なわとび、鉄棒、折り紙、ゲーム、音楽、もちろん読書、そして、好きになった人(物語の中の人や、芸能人、スポーツ選手など含む。)もたくさんいる。好きになると止まらない。その偏執に近い情熱の傾け方は、「恋する乙女」というよりは、そう、「オタク」に近いのである。

しかし、対象に向かって突き進む私の集中力は、平穏な生活を重んじる私の両親の目には危うく映っていた。「私たちの子どもなんだから特別な器量があるわけでもあるまいし」「何より大事なのは規則正しい生活です」「この子は一歩間違えば、宗教などに走るタイプではなかろうか・・・」。私が何かに夢中になるたびに、「ほどほどにしなさいよ」とストップがかかった。おかげで私は何かを極めることもないが、そのかわり自制という概念を身につけ、こうして社会に順応した大人になったわけです。それについては基本的に両親に感謝してます。やっぱりほら、基本、凡々とした人間ですから、エキセントリックに生きては苦労するだけなのです。

それでも、三つ子の魂百まで。私のミーハー魂、オタクっぷりは、ふとしたことで爆裂するのだ。

②世の中は日々、進歩している。

私が小学3年生のときに放映された大河ドラマが、『武田信玄』。1988年のことである。その少し前に、民放で『おんな風林火山』というドラマをやっていた(主演はなんと、若き日の鈴木保奈美)のだが、その原作となる少女マンガを読んでいたこともあって、私はたちまち、この重厚な大河ドラマに夢中になった。当時20代だった中井貴一の武田信玄は涼やかで男らしく、いかにも時代がかった登場人物たちの言葉遣いの魅力はすばらしく、平幹治郎や小川真由美の怪演に震えあがり、紺野美紗子や南野陽子のお姫様ぶりは夢見がちな少女を虜にした。視聴率も歴代大河ドラマトップクラスの名作だった。

既にオタク魂を会得していた私は、この大河ドラマをきっかけに、みるみる好奇心を歴史の世界に派生させ、そのドラマチックな世界に傾倒していった。図書館や本屋を駆使して本を読み漁っていったのである。私の知識は日本で生まれた学生が学ぶべき常識を凌駕し、小学校、中学校はもとより、高校に至っても、日本史という教科で苦労することはついぞなかった。どうやら、一般的には女性は歴史に興味をもたないようで、今でも会社の飲み会なんかでオジサマたちが歴史の話を始めると、異様に食いつきのいい私は半ば感心され、半ば呆れられている。まあ、それで得したことはほとんどないけど。

といっても、私も歴史ばかりに青春を費やしたわけではなく(あたりまえだ・・・)、興味の矛先はいろんなところに向かっていたのだが、今般、久しぶりに大河ドラマを見て、歴史のおもしろさに再び開眼した(してしまった)。

そんな私を待ち受けていたのが、このネット社会である。座して指を動かすだけにして、なんと膨大な情報の手に入ることか!

そして、世の中は進歩する。この平成の世は当然ながら、日々戦国時代から遠ざかっていくというのに、その研究は驚くばかりに進んでいるのである。私が子どものころに見飽きるほど見ていた(どんだけ好きなのだよ、)信玄の肖像画は、昨今の研究では別人のものであるという見解が広がっていた。『甲陽軍艦』を初めとした歴史資料の真偽のほどの検証は進み、暗君といわれた今川義元や武田勝頼の武将としての評価は見直され、子どものころには理解できなかった当時の政治的状況も、今ではスポンジが水を吸うように飲み込めた。1988年の『武田信玄』であれほど正室の三条夫人が悪し様に、そして諏訪御寮人が可憐に描かれていたのは、あのドラマの原作者たる新田次郎が諏訪の出身であるから、ご当地贔屓的なものがあったのだ、という驚異の事実(?)も知った。

ああ、なんと歴史とは面白いものか。それに、これだけのことを瞬時に探せるネット社会のすさまじさ。客観的資料だけではなく、mixiのコミュニティや個人のホームページ、果ては「2ちゃんねる」の大河ドラマ版にいたるまで、目を皿のようにして読んだ。2ちゃんねるを毛嫌いする人はいまだにいるが、「ヲタ」とか「厨」とか「香具師」とか「粘着」とかいわれるような、目を覆うような書き込みをスルーすれば、やはりその情報量や、オタクゆえの愛情の深さは目をみはるものがあります。ちなみに、なんとわたくし、混みあいがちな2ちゃんねるを快適に閲覧するために、ついに専用ブラウザまでインストールしてしまいました!

かつて、一般的にメジャーでないものを好きになると、その愛情を語り合えることはほとんどなかった。それが今ではクモの巣は世界に張り巡らされているのである。同好の士がこんなにいる、というのは、それだけで盛り上がるもの。かくてオタクの切磋琢磨はすすむのである。(さらにつづく)
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