翔くんのときどき日記

2005年06月24日(金) タイトル未定

少し執筆してみました。今日は比較的、地の文もかけました。

まぁ、地の文っても一人称なんで台詞みたいなものですが。
でも一人称なのがダメなのかな(笑) 一人称って苦手なんですよね。

でもこの話は一人称の方が効果的だと思ったので、それで書いてみました。

ある程度書けたので少しまとめる意味でも、こっそりアップしてみます。

まだまだ粗いですが、どうでしょう?

興味をひくかなぁ。。。


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「ねぇ、ターンオーバーって知ってる」
 クラスメイトの声が不意に聞こえた。
 けど、それは僕にかけられた声ではない。隣にいる別のクラスメイトへの問いかけだ。僕はただ聞こえてしまっただけに過ぎない。
 そもそもこの教室の中で、僕に話しかけてくる奴なんていない。そして僕も誰にも話しかけたりしない。
 高校に入って見知った顔が一人もいなくなった事もあるけれど、もともと僕には友達と呼べる存在なんていなかった。そして新しく友達を作る事も出来ずにいる。
 だから、僕はいつも一人だった。
「なんだそれ。新しいゲームか?」
 聞かれた奴は生き生きとした声で訊ね返す。
 その声がなんだか遠いものに感じて、僕は思わず顔を背けた。でも誰も僕の事なんて気にしてはいないから、何が起こるでもない。
 僕は空気と同じだった。
 やや華奢な体つきでスポーツは苦手。成績もどちらかといえば悪い。顔は見られないほど酷くはないが、決してよくもない。
 何事も平均より少し劣る。それが僕の全てだ。何一つ秀でたところがないから、性格だって暗くていじけている。
 他にたくさん人がいると言うのに、わざわざ好きこのんでこんな奴に構おうなんて物好きはいない。このクラスではいじめの標的になっていないだけ、まだマシな方だった。
 だけど中井優矢という名前を覚えている奴が、クラスメイトのうちどれだけいるのだろう。もしかしたら誰一人として、いないのかもしれない。
 そう思うと、隣で話してる二人が羨ましくも思えたが、僕はそこに積極的に入る事も出来ずにいた。
「違うって。あのね。自分の中に隠された人格を表に出してくれる新しい占いなんだって。最近、流行ってんの。ね、やってみたいと思わない?」
「いや、俺は別に」
「もう。のり悪いなぁ」
 二人は楽しそうに会話を繰り広げていたが、僕は横目で見つめながら立ち上がって、そのまま教室の外に出ていく。
 二人には僕の姿が見えていただろうけど、さよならの言葉の一つもなかった。もっとも僕が何も言わないのも悪いのだろうけれど。
 でも声をかけられなかった。
 いつもいつもそうだ。ただ一言の声が出せない。僕だって、声をかけられるなら、そうしたい。
 だけどいざ声を出そうとすると、喉の奥がつかえたかのように言葉にならなかった。
 変われるなら変わりたい。
 そう思う。
 だからいまクラスメイトの一人が告げていた言葉が、気になっていた。
 ターンオーバー。自分の中に隠された人格が現れる。
 それはどういう事なのだろう。わからない。
 けれどもしかしたら変われるのかもしれない。なりたい自分に。新しい自分に。
 その反面、そんな簡単にいけば苦労しない。そうも思いながらも、その言葉が頭の中に何度も繰り返されていた。




 外はすっかり暗く変わっていた。
 僕はもらったタペストリーを机の上に広げて溜息をつく。
 結局、僕は例の占い師にあっていた。
 顔を全て黒い布で隠した占い師は、男とも女ともつかない姿をしていた。
 そして僕の瞳をしばらく覗き込んだ後、このタペストリーを手渡して告げたのだった。
「時計の針が十二時ちょうどを指した時、このタペストリーを広げて呪文を唱えなさい。そうすれば五日の間だけ、貴方の中に新しい人格が生まれる」
 占い師が告げたのはそれだけ。
 他にも呪文の内容とか、教えてはくれた事はあるものの、大意としては特にない。
 それだけで五千円も取られた。その時は独特の雰囲気にそういうものかと思いこんでいたが、今にして思えば僕は騙されたのかもしれない。
 たったこれだけの事で、自分の中にいる知らない自分が生まれるのなら、誰だって苦労しないと思う。馬鹿馬鹿しい。そう思う。
 それでももしかしたらという気持ちを捨てる事も出来ず、いつの間にか時計が十二時を指し示すのを待ち続けていた。
 シンデレラの魔法は十二時でとけたけれど、僕にかかる魔法はそこから始まるらしい。もっとも始まりすらしないかもしれないけれど。
 やや自虐的に呟くと、僕はもういちど溜息をついた。
 壁にかけられた時計をじっと見つめる。
 もうすぐ針が十二時ちょうどに重なろうとしていた。
 馬鹿らしいけれど、やるだけやってみよう。心の中で呟くと、僕は時計をじっと見つめる。
 それだけ僕は追い込まれていたのかもしれない。
 時間の針が揺れる。
 あと五秒。四、三、二、一。いまだ。
「テイルリング、中井優矢」
 たったそれだけの呪文。
 それを唱えた瞬間、タペストリーが突如として光輝く。なんて事もない。ただカチカチと時計の針が時間を過ぎるだけだ。
 何も変わったようには思えなかった、
 やっぱり僕は騙されたのだと思う。いつも僕はこうして食い物にされる方なのだろう。そういう星の下に生まれてきたのかもしれない。
 悔しくて悲しくて、だけどそれをどこに吐き出す事も出来なかった。気持ちを漏らす術を知らなくて、僕はただ心の奥底にため込んでいた。
「寝よう」
 思わず声に出して呟いて、手を軽く震わしていた。眠ればこの気持ちも少しは収まると思った。僕の他には誰も気持ちを伝える相手なんていなかったから。
 ベッドにすがるように入り込む。
 歯の奥を食いしばり、目を閉じた。
 その瞬間だった。
(ちょっとっ。挨拶もせずに寝るわけ。少しくらい何かいいなさいよ)
 突然、その声は高らかと響いていた。
 慌てて辺りを見回してみる。
 しかしもちろん誰の姿もない。当然だ。ここは僕の部屋の中で、そう大した広さでもない。誰か人がいればすぐにわかる。
「いま声が……」
 もういちど声を出して呟いていた。
 今の声は女の子のもののように聞こえた。かなり激しく響いたその声は、だとすればずいぶん気の強い少女のものだろう。
 部屋の中には誰もいない。かといって外に誰かいる訳でもない。声の主の姿はどこにも見あたらなかった。
 空耳かとも思ったが、それにしてはあまりにもはっきりと聞こえていた。あれが空耳であれば自分の心は完全に壊れてしまったのかもしれない。
 思わず唾を飲み込む。
 同時に、もう一度その声が聞こえていた。
(もしかして、自分で呼び出しておいて私が誰だかわかってないの。最悪ね。信じられない)
 声は呆れた様子で告げていた。
 この時、僕はやっとその声が耳から聞こえているのではなく、僕の頭の中でだけ響いている事に気がつく。
「もしかして」
 今度は声には出さずに、頭の中でだけ呟く。
 それと同時に再び声が話し始めていた。
(そうよ、ようやく気がついたの。私は貴方の中に新しく生まれた人格よ)
 はっきりと告げる声。やはり空耳なんかではあり得ない。
 僕の心が壊れたのか、それとも本当にターンオーバーとやらの効果なのか。確かに声は僕の中で響いている。
 だから思わず僕は笑みをこぼしていた。
「あははは」
(ちょっと、何がおかしいのよ)
 声の主は、思い切り不機嫌そうに声のトーンを変える。
 僕の中の新しい人格だか幻聴だかとはいえ、僕の考えている事全てがわかる訳ではないらしい。
 なるほど、確かに新しい人格なのだろう。
 僕が笑った理由は嬉しかったからではない。おかしすぎたから。あまりにも自分が情けなすぎて。今までこれほどまでに自分を情けなく思った事はない。
「はは。これはいいや。藁にもすがる気持ちで試してみたら、生まれてきたのは女の子。はは、僕の中に隠れていた人格は男ですらなかったとはね。つまり僕はオカマだったんだ。はは、情けなくて当然だよな」
 胸の奥が苦しくて吐き出しそうに思えた。

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ここまで読んでくださった方。ありがとうございます。

ではではー


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香澄 翔 [MAIL] [HOMEPAGE]


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