翔くんのときどき日記

2003年02月10日(月) 新作

新作、ちょっと書きました。

えーっと、まだぜんぜん変える可能性があるんですが。冒頭だけ載せてみます。

もしよければ、続きが読んでみたいかどうか。教えてくださいー。





さよならはまるいかたち

「私と一緒に死んでくれますか」
 彼女はくるりと振り返り、長い髪を風になびかせながら告げる。きりたった絶壁の前で。
 白いワンピース。ふわとスカートの裾が舞う。麦わら帽子。夏の印。
 向こう側からは時折、波音を響かせる潮騒が誘うように二人を呼んでいる。
 ここから飛び降りたら確かに死ねるだろうな、と浩一は軽く思う。少女の小さな微笑みが、全く現実感を伴わないから。悪質な冗談。普通に考えればそれ以外には有り得ない。
 初めて会う見たこともない少女、年の頃は十八、九。もしかするとまだ高校生なのかもしれない。どこかにあどけなさを残すものの、整ったとびきりの美少女が知らない男と一緒に死のうと誘いかける。
 しかし「はい」と答えれば、すぐにでも彼女は浩一の手をとってそこから飛び降りてしまいそうな冷たい臭いを漂わせて、しんと空気が伝う。にこやかな彼女は笑顔のままでゆっくりと手を伸ばす。
 浩一は海の匂いは嫌いだった。だけど今は鈴蘭のような囁くような、爽やかな香りのようにも感じられる。
 何も答えずにただ顔を上げて、浩一はまっすぐに少女を見つめていた。
 響くのは海の歌声だけ。二人を、呼んでいる。


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香澄 翔 [MAIL] [HOMEPAGE]


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