つたないことば past|will
夕闇は魔を引き寄せる。 夕陽に照らされてオレンジ色に染まっていても 狭い路地に一歩踏み込めばそこは闇。 魔はそんなところに潜み、人に囁きかけ、たぶらかすという。 逢う魔が時―とはよく言ったものである。 (じゃあ今俺の目の前にいるあれもそうだな) サスケはぼんやりとその光景を見ていた。 向かい側から黒髪の兄弟が手をつないで歩いてくる。 背の高い兄と小さな弟。 弟のほうが兄に一生懸命話しかける。 兄はそれに応え、微笑みかける。 そのなんともほのぼのとした光景は、サスケにとって嫌悪を 抱くもの以外の何物でもなかった。 (だいたい俺の中にあいつとのそういう記憶はない) 今思えばあいつの背中ばかり見ていた。 それに向けて差し伸べた手はいつも空を切った。 あいつは俺のことなんか見ちゃいなかった。 俺だけが、 いつもあいつを、 オイカケテ 兄弟はサスケのすぐ傍まで近づいていた。 弟を伏し目がちに見ていた兄が不意に顔を上げた。 そして、 にこりと微笑んだ。 (なんなんだよ) 今更そんな風に笑ったって無駄だ。 それくらいじゃ俺の決意は曲がらないからな。 今は駄目でもいつか必ず、 必ず、 あんたを、 ――――――――。 笑いかけるくらいなら、殺してくれればよかったのに。
|