つたないことば
pastwill


2001年11月27日(火)  オレンジシンドローム

君は夕方になると必ずそこに居た。

誰かを待っているのだろう。
夕暮れ独自のオレンジの閃光を浴びながら君の眼は遼か遠くを見据え、
ほんの数メートルしか離れてない通行人さえ見えないみたいだった。

陽が落ちる。
影が次第に長くなってゆく。
しかし君の影は塀になじんだまま動こうしない。

君の目の前を黒髮の若い青年が通った。
君は目覚めたかのようにはっとして、とっさにその背を目で追う。
そして何かに気付き、がっくりとうなだれた。

そうか、君が。
君が待っているのは。
君に依存しているのは。

僕は君に声を掛ける事も手を差しのべる事も出来ず、ただ遠くから
見ているだけだ。
君の距離まで10メートル。
それでも永遠に辿り着けない気がした。

陽が落ちた。
長い影は地に溶けた。
オレンジ色だった君は深い藍色になった。

僕は涙をこぼした。



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