ふとその姿を思い出せば、切なくなる人がいる。 こんな時間にと思いながら、いつも先をこされる 電話を手にしてみると、思いがけずすぐに 返事がやって来る。 暗闇にこっそり通話ボタンを押せば、 記憶より少し控えめな声が聞こえて来る。 どうしてこんなに求めてやまないのだろう。 貴方の元を離れたのはもうずいぶんと昔。 いつもの口調にいつもの優しさ。 そばにいない事に永久に慣れないのかもしれない。 まるで離れた事を後悔しているように、 いつだって会いたくていつだって寂しくなる。 早く寝なさいと優しく諭されれば、安堵と切なさに 涙が出そうになる。いつまでもこれでは駄目だと 分かっているのに、いつまでもこのままでいたいと 心の底から駄々をこねる自分がいる。 不肖の身を思いながら、その幸せをかみ締める。 追いつかない思い。早くもっときちんとしたいなんて、 今更ながら、子供のような願いをつぶやいた。
|