衛澤のどーでもよさげ。
2008年12月15日(月) 不味。

炊きたて飯のおにぎりが食べたくて御飯を炊いたはいいが熱くて握れずに炊きたて飯のおにぎりが喰えず終いの衛澤です。

これまで好んで可能な範囲で奇食に関わってきました。奇抜な食材を用いた食べものや、奇怪な食べ合わせの食べものや、脳が捻じれた感じの方法で調理された食べものなどです。「普通に食べたら当たり前においしいのにどうして余計な一ト手間を加えるのか」というアレです。
けれども私は、これまで「不味い」ものに当たったことはありません。食べられるものを材料として調理をする限りは食べられるものができるはずです。「おいしくない」ものはできるかもしれませんが、喰えないほど「不味い」ものはできないのが道理です。牡蠣ソフトクリームだって小倉バタートーストだってうなぎパイだってみんな何処かが第四次幻想の方向に捻じれてるけどどれも美味です。

そんな幸福な三十余年の人生でした。そして今日、私は新しい邂逅に行き当たる。割りと近くにいたのにお互い気付かなかったんだねという感じの出会いです。しかも友人から紹介されました。
その君の名は……「カフェロップ」。



上記写真のパッケージに書いてある通り、「眠気防止薬」です。薬店で購入できます。眠いのに寝ちゃいけない人たちが主に使用します。稀れに寝たいのに眠れない人が自棄を起こしたり錯乱したりして使用することもあったりするかもしれません。ペンで何か書いたり描いたりする人たちは高確率でこの種の薬品を使用しているようですが、そのスタンダードは瓶入りドリンク剤です。しかしこの「カフェロップ」なる薬剤は、パッケージを見るとドリンク剤ではなくドロップタイプと書いてあります。つまり飴ちゃん状です。



上記写真で比較対象の爪楊枝と比べてみますと判ります通り、一般に販売されている飴ちゃんの類いよりも幾らか小さいくらいです。見るからにコーヒー色で、それがカフェインを連想させ、眠気がなくなるかもという気分にはなります。
では、これを使用……食べてみましょう。

口に含み、瞬間、鼻腔に漂うコーヒー香料の香り。「コーヒーの匂い」ではなく「コーヒーっぽい」匂いです。そして飴の甘み……やがて苦味。
飴が舌の上で溶け出した途端に襲い来るこの苦味はコーヒーの苦味ではありません。ちょっと高価なドリンク剤の薬草っぽい苦味と渋柿を渋柿と知らずに喰ってしまったときのえぐみと驚きと後悔をブレンドしたかのような不快な、最早や何味と言っていいやら判らない味というか刺激に口腔粘膜のすべてが一斉に塗り替えられてしまいます。申し訳程度に少しずつ溶け出してくる合成甘味料の甘みが不快な味を抑えようと働きかけているのは判るのですが、その力があまりに非力で却って腹立たしいと言うか、無理して抑えてくれない方がまだましかもしれないという絶望の一歩手前の感じ。つまりこれは。

不味い。

そう、間違いない。これが「不味い」という味覚なのです。生まれてはじめて出会う感覚です。この口腔内に広がる、痺れに限りなく近い苦味そしてえぐみ。口の中で転がして舌先の方へやれば舌先の感覚が麻痺するように感じられ、喉の近くにやれば舌の広い面積がえぐみを感じて吐き気を催します。噴門が開く感じ。要人暗殺のための毒を薄ーくしたものにちょびっとだけシュガーカットと悪意を混ぜたような。あー不味い。これは「不味い」と口に出さなければじっとしていられない不味さです。うー不味い。「不味い」と口に出して不味さを紛らわせよう。不味い。不味い。
これでは職場で幾ら徹夜を乗りきろうとやる気を出してカフェロップを食べてみても、勝手に口から「不味い」というネガティヴな単語が沢山出て行くことによって自分は疎か職場にいるみなさんの士気が下がる一方ではありませんか。ともすれば同僚のみなさんに「不味い不味いとうるさい」と袋叩きに遭うかもしれません。或るいは「こんな不味い思いをしてまで起きてられるか」という理不尽に五臓六腑が大沸騰で仕事どころではなくなるのではないかと思います。

……判った。

これは「眠気を取る」のではなく、服用した人の意識を「不味さ」に一点集中させて「眠いことが判らなく」してしまう薬なのです。歯が痛いときに身体の何処かをつねるとつねった場所が痛い御陰で歯の痛みがなくなったりましになったりするのと同じです。含まれているカフェインの覚醒作用で眠気が覚めるような雰囲気をコーヒー香料で醸し出しておいて実は意識を陽動しているのです。きっと。
飴ちゃん状のものに精神攻撃を食らうとは思いませんでした。

こうして人生初不味いだった訳ですが、そのはじめての経験を、カフェロップの不味さを、ここに記録するとともに、果たして自分はそれ等を文章で伝えることができるのかどうかを試してみるということを出発点に本日の記事を書きました。どうだったかな。
あと主文とはまったく関係ありませんが、姿見(鏡)を衝動買いしました。暮れの物入りの時期になると自分の財政顧みず散財したくなるのは何故なんでしょうね。物欲ではなくて、「買いものをしてやった」という満足感のようなものを得たいみたいです。


エンピツユニオン


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