思い立ったからには決行せずにはいられなかった。上下のジャージに運動靴をはいたあと、軍手をはめる。一見すれば、普通の散歩の格好に見られるだろう。深夜2時、人通りがなくなった夜の街に私は一匹の獣となって駆け出すのだ。
家の前を出て、通りをしばらく進んだところで私は変身を始めることにした。手を前について四つん這いになる。ここから手は前脚に変わるのだ。地面に着いている膝をゆっくりと上げていく。今まで足だった場所が後足に変わっていく。
前脚を一歩前に出す。後足も一歩前に出す。ついつい膝をつきそうになる。バランスを取るのが難しい。それでもゆっくり歩いているうちにだんだん慣れてきた。そして小走りができたとこころで私は首を上に持ち上げて一声吼えたのだ。
「あおーーーーーーーーん!!」
夜気の中を動物となって駆ける・・・とまではいかない、まだまだ、4足歩行としてはぎこちない。しかし、いままで人間であったことのストレスからのこの解放感はどうだ。なんでいままで2足で歩いていたのだろう。低くなった目線から見る慣れた街は、まるで未知の世界のようだ。空気の味もたしかにちがう。生まれ変わったかのようだ。
また余計なことを考える。そういえば、もしも俺が今この状態で、裸のねえちゃんで、首に縄を掛けられいたら、団鬼六の作品かなんかでそんなシチュエーションがあったよなあ。とかそんなこともかんがえる。・・・確かに、確かにこれは性的な興奮もあるかも知れんが・・・性にここまで持ち込んだらある意味極まっちまうよなあ。うん。これはいかんこれはいかん、禁断の快楽の果実だよこれは。
よーし、パパ、角を回っちゃうぞーとおもい、インをついて曲がる。そこでよく確認をしなかったのが間違いであった。人間と遭遇してしまった。しかも、悪いことに相手は、メスであった。人間のメス、しかも、みた感じ一応若い女性ということで通用しそうな女だ。どうやらコンビニでなにか買って帰るとちゅうらしい。女がこんな時間にうろつくなと説教しそうになったが、今はまずい。なにせ、私はいま、ビーストタイムである。向こうから見れば、四つんばいで角からでてきた男・・・明らかに変質者である。おそるおそる確認すると、やはり、おびえた顔をしている。いかん・・・実にいかん。下手を打てば私の社会的立場が抹殺される。人間界にもどれなくなってしまう。
さまざまなシュミレーションを考える。「キャイン!キャイン!」と叫びながら尻尾を巻いて逃げるか?「コンタクト落として探してます」とかいうか?いっそ普通に犬として横を通り過ぎてやろうか?様々な選択肢が脳によぎる。
結果、私の口から洩れたのは「・・・うーーい、ヒッく・・・」というなさけない音であった。そのままよろよろと立ちあがろうとして立ち上がれないという芝居を繰り返しながら向こう側の路地の壁にすがりつく。・・・そう、泥酔者のふりである。そのまま、まともに歩けない体を装い、女をやりすごす。・・・情けない話である。動物化計画の失敗である。ここら辺の自分の度胸のなさが毎度のことながら情けない。
こうしてわたしの、「四足歩行で人間卒業計画」は失敗となってしまった。だが、まだ私はあきらめない。様々な対策、特に私の精神面を鍛えなおすことでいずれしっかりとした4足歩行をマスターし、あたらしい人生、いや、人間止めるんだから人生じゃないか、犬生?いや犬と決まったわけでもないし・・・とにかく新しい進化の局面に達したいとおもう。私のエボリューションはここにはじまったのである。
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