母とAを連れて、歌舞伎座へ芝居見物に。
分不相応に高額なチケットは、清水の舞台から飛び降りるつもりで購入した。
かつて月ごとに祖母とでかけた思い出の歌舞伎座は、今年4月には取り壊されてしまう。 最後にどうしてもここでの芝居を一目みておきたかった。
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三代でおめかしをして、地下鉄に乗って、銀座四丁目の交差点に出る。 銀座の華やかな街並みを見上げて、Aはわあと声を上げる。
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懐かしい歌舞伎座正面入り口には、カウントダウンのプレートがかけられている。人々は記念写真を撮っている。
何もかもが変わらないけれど、外壁の様子などをみるとやはり少しくたびれたのかなと思う。
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満を持して開場し、賑やかしく客席につく。場内を改めてぐるっと見回す。 舞台も花道も、桟敷や一幕見席も、記憶に比べてずいぶんこじんまりと近い。
助六はあの辺り、忠臣蔵を通しで見たときはあの席、今は亡き歌右衛門を花道の横で見たことなど、つい先ほどのことのように蘇る。
本日お別れの演目が、好きな役者の一人である中村勘三郎の「高杯」「籠釣瓶花街酔醒」というのも、申し合わせのようである。
福助や三津五郎も、それぞれに年を重ねた。
遊び好きな祖母のお供とはいえ、ずいぶんな贅沢をさせてもらった十代の記憶は、今でも優しい。 何十年ぶりに、孫娘に戻って、歌舞伎座にありがとう、さようならを言う。
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晴れ晴れした気持ちで、夜の銀座に出る。
Aはというと、そんなに母の思いがあるのならいいものなのだろう、という気持ち一筋で、難しい演目をけなげにそれなりに楽しんだようである。
2009年02月12日(木) 休日の後 2007年02月12日(月) リスクが顕在化するとき
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