遠山啓「数学の学び方 数学の教え方」を読む。 1972年に書かれた本であるが、内容は今でも斬新で、 特にこの本が書かれた時期に算数を習った者には必読かもしれない。
著者は、学校で教える算数が子供たちの数の概念をいかに混乱させるか、 教科書の歴史的経緯や内容を追って、理論的に書いている。
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頭の良い子、乃至はまじめに授業を聴く子なら、 どんな風に教わっても自然と学んでいうだろうと思っていたが、さにあらず。 算数を苦手とする人は、ある教育方法の結果なのである。
教える技術というのは恐ろしいものである。概念をかき回す。
著者の言うところによると、私達は、美しい数の世界を −フランスでは芸術分野とされる−自分のものとする機会を奪われていた。
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何事も、概念というのは大切だ。 概念という容器がなければ、いくら言葉を重ねても、 ただこぼれ落ちていくだけだろう。
概念は、経験からしか身につけることができない。 広い、狭い、多い、少ない、高い、低い、暖かい、寒い。 美しい、醜い、良い、悪い。
空間の概念も、数の概念も、言葉にすれば難しいものが、 もののたとえで言えばああそうかと腑に落ちることがある。 寅さんだって、そう言っている。
そして経験は、外注に出すことはできない。 自分でするしかないのである。
だから、代価を支払って便利を手にすることは、それが何であっても、 ひとつの経験の−概念を身につける−機会を手放していると承知すべきである。
そして思う。 よくわからないけれど、子どもの学習が困難になっているのは、 物事を経験する量が不足しているからではないだろうか。
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