所用で川向こうの地方事務所まででかける。 庁舎の広いロビーの壁に、虐待防止のポスターを見つける。 泉谷しげるというタレントの、凄みを利かせた写真と 「許せねえ、児童虐待」というキャッチフレーズ。
厚生労働省の担当課は、「怒り」をテーマとしてデザインしたとのこと。 虐待に対する国民の通告の義務に関する啓発も その目的に含まれているようだ。
0.1秒の速さで違和感の反応。 こんなネガティブなキャンペーンを打って、 虐待は本当になくなるのだろうか。 それとも、そのように思う私は、どこか認識が甘いのだろうか。
「ゴミを捨てるのはやめましょう」「海や山をきれいにしよう」 このような、まったく人の心に届かない偽善的な 公共用語が今までどれだけあふれてきたことか。
子どもに虐待をしてしまう大人は様々であるが、 事後にひどく後悔するというのも、一つのパターンだ。 そんな、自分でさえ自分を嫌悪している大人に対して、 こんな暴力的な言葉で追い詰めて、何が楽しいのだ。
罰することばかり上手くなって、救済の知恵がない。 悲劇であり社会全体で止めなければいけないことは、 こんなポスターなんかなくったって誰もが承知なのだ。
親子であることは素晴らしいこと、 親子の愛情は何ものにも代えがたいもの、 それを損なわれている、子どもに手を上げてしまうあなた達は 自分達が不幸なのですよ、でも幸せになる方法はありますよ、と どうして言えないのだ。
件のポスターは学校に張り出されているようだが、子ども達に 親というのは悪いもの、自分に危害を加えるもの、 一緒にいないほうがよいもの、と思わせたいのだろうか。
自分の子どもが「親による虐待」という概念を知る日、 それもこんなポスターによって知ってしまう日、 私はどういう説明の言葉を用意すればよいのだろう。
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