自言自語
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その日は朝早く家をでた
最近はずっとお昼前に家を出て あの通りを通ってオジサンの顔を横目で確認して それからランチを食べて それからまた街をぶらぶら 買い物したり 映画をみたり ナンパされたり 帰りにまたあの通りでオジサンを確認して... の繰り返しだったけど
その日はもう目が覚めてからいてもたっても居られなくて テレビを見ててもつまらないし 時計が午前九時を回る前に家を出たの
いつもの駐車場に車を停めて 深呼吸をして 一直線にオジサンのところへ向かったわ
まだ朝早いから その通りにも人は少なくて 私にとっては 人目につかなくて好都合だったわ
いつもと同じ 明るい雰囲気なカジュアルな洋服店と シルバーアクセサリーを扱う小さな店の 間にある小さな路地 いつもそこにオジサンはいるの
オジサンの正面に立ったわ また目が合ったわ 目を閉じてもう一度深呼吸をしたわ それから目を開けるのと同時に オジサンに向かって歩き出したの
私がオジサンの前にたどり着くまで オジサンはずっと私の顔を見たまま 無表情だった
私も負けないように 無表情でオジサンから目を離さなかった
「こんにちわ」 私の記念すべき最初の一言 でもオジサンは何も言い返してはくれなかった まだオジサンと私の目は合ったまま 少し沈黙が流れたの 私頭の中がぐるぐる回転してるみたいで どうしたらいいのか分からなくて でも言わなくちゃ言わなくちゃって
「あの...」 私がそういうのとほぼ同時に オジサンがゆっくり口を開いた
「やっぱり俺が見えてるのか?」
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