自言自語
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その日 月が一番近づいた。
ユウコはユウキと二人で七月の満月を見つめていた。 その日の月は、やけに大きく見えた。 ユウキが言った。 「きれいだね。」 ユウキはどこにでもいる子供のように、まさに子供のように笑ってみせた。
どこにでもある当り前の風景。 それなのにユウコは溢れる涙を堪えることができなかった。 涙を隠すために見上げた空には、やけに大きな月が見えた。
その日 月が一番近づいた。
ナミは生まれたときから耳が聞こえなかった。だから言葉も話せなかった。 マサルは静かに笑う可愛い娘をその腕に抱きながら、やけに輪郭のはっきりとした大きな満月を見上げていた。 周りがやけに静かだからか、遠くを走る車の音がはっきり聞こえた。 「ここも結構都会だな。」 マサルがそう誰に話し掛けるでもなく独り言を呟いた瞬間、音が消えた。 この世の全ての音が止まった。マサルは自分の耳がおかしくなったのかと思ったほどだった。 しかし、そんな考えもすぐに間違いだと分かった。 声(おと)が聞こえたのだ。 「しずかだね。」 自分の腕の中の娘の口から。
空にはやけに大きな月が見えた。
元ネタ:シオン「月が一番近づいた夜」
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