体調はほぼ回復。 寒い時期なので肩凝りは残るが、それでも頭痛が消えて食欲が戻ったので、随分元気になった。
「噛んだところが口内炎みたいになって痛いよう」 と、主人がしょんぼりして、唇の裏を見せて来た。 その直前に、主人が食べ零したお菓子のくずを床に発見したばかりで、何度言ったらわかるんだコイツは……!と多少イラついていた私がつい、 「あらあら可哀相に。早く治るように、塩でも擦り込んであげましょうか?」 と言うと、主人は目を剥いた。 「酷い!
鬼ババア……!」
鬼ババア? 今、鬼ババアって言ったね。 「貴方、私の事を『鬼』と言った事は今まで何度もあったけれど、『ババア』まで付けたのは今が初めてよね?」 と主人の目をじーっと見ながら静かに言うと、主人がか弱い声で答えた。 「今ね、凄く、心臓がバクバク言ってる……苦しい」 「そうか。じゃあこれを繰り返せばもしかして」 「うん。こないだシオンが観ていた『シャーロック・ホームズ』の悪者みたいになるかも。『奴の心臓は、恐怖で既に止まっていたのです』って」 BSで放送中の「シャーロック・ホームズの冒険」デジタルリマスター版で先日、そういう話があったのだ。 でもそれは、良心の呵責が原因な訳で、 「つまり、貴方も、私をババア呼ばわりした事で、良心の呵責を覚えたという事?」 と畳み掛けると、 「蛇に食われる蛙に、良心の呵責なんて無いよ。あるのは恐怖だけだ」 と言い切りやがった。 よし、保険金増額しとくか。
|