検診で、いつもとは別の病院に行った。 受付開始とほぼ同時の朝一番に行ったのに、待合室には既に10人ほどの患者が座っていた。 出遅れたかーしまった本でも持って来れば良かったなあと思いながら椅子に腰掛けると、目の前にとても違和感のある老人が。 不自然に頭髪が黒いのだ。 この頃はババアでも茶髪、ジジイでも緑の黒髪なのが当たり前のようだが、顔がしわくちゃなのに頭だけ若いのは、ヒジョーに不自然で滑稽である。それヘンだよ、って身内が教えてやればいいのに。 しかし目の前の老人は、その遥か上を行く不自然さだった。 朝のワイドショーの司会者どころの話では無い。 比喩ではなく、本当に頭だけが浮いていたのだ。 まるでヘルメットである。 じろじろ見ちゃいけません!と自分に言い聞かせ、ふっと目を逸らしたが、恐ろしい事に、すぐまた目が吸い寄せられるのだ。 一体何の呪いを使っているんだ、このじいさまは。 強烈な呪いで、どうしても目がそちらに行ってしまうので、かなりの術の使い手と思われる。 考えてみれば、私の目の前に座っているのだから、視線を逸らすほうが難しい。 おまけに私は手持ち無沙汰。ぼけーと前を向いて座っているしかないのだ。 それにしても、一発でバレバレなのに、何故そんなのを被っているのか、不思議で仕方無い。 ありのままの禿頭を晒すより、ヘルメットのような被り物の方が、よっぽど恥ずかしいではないか。何かの罰ゲームでなけりゃ、そんなもん被らないだろうと言うぐらいの代物なのに。 これは誰かに見せて、この思いを共有したいと思った。 しかし、流石の私も面と向かって 「すみません、写真撮らせて貰えませんか」 とは訊けない。じいさまの人権を考えたら無理。 うわー写真撮りたい……しかし病院内なので携帯電話を弄る振りをして隠し撮りも出来ない。 くうーと耐えていると、看護婦さんがじいさまに話しかけた。 話し振りからして、馴染みの患者らしい。 ねえ! その髪型について何も思わないの!?と今度は看護婦さんに質問したくなった。 しかも看護婦さん、じいさまと普通に会話している。 プロって凄いなと思った。 こんな事で動揺するようでは、自分はまだまだ未熟であると思い知った。
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