震災の被災者に対して、義捐金の給付が始まったらしい。 役所の担当者が、コンピューターで口座入金の手続きをしながら、 「緊張しますね。かなりの金額になりますし、口座番号を間違えないように慎重になります」 と取材を受けていた。 全部合わせると、何億円というお金になるらしい。 一緒にTVのニュースでその様子を見ていた主人に、 「そりゃ緊張するわね。億じゃ間違えられないもんな」 と言ったら、ふとこんな事を訊いて来た。 「うちの銀行口座に間違って7億円とか入っていたら、シオンならどうする?」 私は即答した。
「返してって言われないうちに、全額引き出す!」
「……」 反応が無いので、ん?と主人の顔を見ると、露骨にドン引きの表情をしていた。 「え、じゃあ貴方ならどうするの」 「返すよ。だって、受け取る謂れの無いお金だろ。どうせすぐ向こうも気が付くよ。勝手に遣ったら犯罪だろうよ」 犯罪なのか。 でもそれって、振り込んだ相手の落ち度では……あーでも錯誤だから無効を主張されたら? みずほ銀行のジェイコム株の場合、錯誤による無効の主張は認められなかったが、あれはみずほの過失というより、システム上の理由だったような。 売買ではなく譲渡の場合、錯誤の主張は更に認められ易いのか。 そしてこちら側は、大金を受け取る理由が無い。普通はおかしいと思うから、その時点で善意の人間ではなくなってしまう。 やはり犯罪になる公算が高いのか? と主人に訊いてみたが、そんなん知らん、法律家じゃないんだからと言う。 どうしたら穏便に謎の大金を手に出来るのかという課題に私の思考が移行しつつあった時、主人の一言で我に返った。
「今、このままシオンとの生活を続ける事について、かなり本気で考えたよ……」
離婚が頭を過ぎったという事ですか。 「や、やだなあ!! 冗談だよ、冗談に決まってるじゃん、7億猫糞して海外逃亡なんて!」 と慌てて口にしてみたが、あんまり冗談だったとは受け取って貰えなかったようである。
|