サイレンの音が聞こえた。 窓から外を見ると、そう遠くない所で黒い煙が立ち昇っていた。 天気は悪くない。降りそうという程ではなく適度に曇っていて、時折陽が差すぐらいなのでカンカン照りでもない。 決心して、トイレを済ませてから、財布と携帯の入った鞄を持って出かけた。
暫く歩いて気が付いた。今にも膝が抜けそうなぐらいに穿き古した部屋着ズボンで出て来てしまったではないの。 しかし戻ったら、そのままやーめた!になってしまいそうなので、歩き続ける。ハナからお洒落なんてしていないし、ただの散歩だ。 また暫く歩くと、目標にしていた煙が消えてしまった。 あれ、確かこの辺りだった筈だが……と周りの空を見渡しながら歩くと、もう少し先に薄くなった黒煙が見えた。 自分を励ましながら尚も進むと、橋の袂まで来てしまった。確か、家から2kmぐらいある筈……車生活に慣れ切って、日頃全く運動しない私の脚は、もうガタガタである。 火事は? 大橋の上から探すと、煙は何と、ターミナル駅の裏手から上がっている。遠いよ! 火事場見物は諦めて、お家に帰る事にした。 しかし、もと来た道を引き返すのではつまらぬ。 大橋を渡って、川の向こう岸からぐるりと回って帰ろう。 てくてく歩いて暫くすると、和菓子屋さんがあった。 駅ビルにも入っている評判のお菓子屋さんなので、立ち寄って、2種類のお菓子を2つずつ買ってみた。 しかし和菓子って高いのね。こんなに小さいのに。 本当に軽い散歩のつもりだったので所持金が少なく、会計で焦った。 ぎりぎり支払えたが、残金僅か数十円。これではバスにも乗れない。 バスカード(田舎なので、スイカとかパスモとか無い)も家に置いて来たし、何よりバスは20〜30分おきだ。次のバス停までと思って歩いているうちに、肝心のバスに追い抜かれる有様である。 そして途中で気付いたが、
次の橋、まだ……?
一級河川といっても様々だが、結構川幅がある。河原も広いので、橋も大きい。 そして、橋と橋の間が非常に長い。 考えてみると我が家は、その橋と橋の丁度中間辺りに位置していたのだった。 もと来た道を戻るんだ! 振り返ったが、時既に遅し。このまま進むにしても戻るにしても、同じぐらいかかりそうである。 足を棒にしながらとぼとぼ歩いていると、頭の中であの歌が流れた。
あの町この町 日が暮れる 日が暮れる 今来たこの道 帰りゃんせ 帰りゃんせ
お家がだんだん 遠くなる 遠くなる 今来たこの道 帰りゃんせ 帰りゃんせ
うん、でもね、もう遅いの。 何故もっと早く気付かない、自分……。
ヘロヘロになりながらも、何とか、夜空に夕べの星が出る前に帰り着く事が出来た。 河原の叢に雉がいたのに、遠過ぎて、携帯電話のカメラでは上手く捉えられなかったのが残念。 夕方のニュースで判ったが、窓から見た最初の火事は、私が付近に到着する前に鎮火していたらしい。すると、駅裏の火事は別物だったのか。 乾燥注意報が出ている。火の元には用心を。
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