私は、1度に2つ以上の事が出来ない。 当然、複数のおかずを同時進行で作るのは苦手で、料理なんてのは、もはや苦行の域だ。 食卓でも、向こうにあるソースを取ろうと手を伸ばし、目の前にある醤油差しをドーンと倒すなんてのは日常茶飯事だ。 私の脳は、1つの事に目が行くと、他の事が見えなくなってしまう仕組みらしい。
その日、義妹が来ると言うので、私は慌てて片付けをしていた。 仮令到着30分前の連絡であっても、アポ無し訪問よりは遥かに有難い。 仕事が休みで在宅していた主人に手伝って貰いながら、余計な物を魔窟に仕舞いこんでいた。 右手で押入れに紙バッグを突っ込み、左手で押入れの戸を閉める筈が、何故かそれを同時にやってしまったのである。 「ぐおおお!」 丁度肘の骨の所を勢い良く挟んでしまい、悶絶する私に、冷たい視線を投げかける主人。 更に冷たい言葉でも投げかけるのかと思いきや、ふうと溜め息を吐いただけだった。 ……言葉よりも、余計冷たかった。
お茶でも飲んで行けばと勧めたが、義妹一家は上がらずに、玄関先で帰って行った。 あの苦労は何だったのかと。 数日経って見ると、肘には黄色い痣が出来ていた。 青いのも目立つけれど、黄色いのは老人ぽくて何だか嫌。
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