我が家には、硝子のコップが無い。 普通の透明の硝子製の、所謂普通の「コップ」である。 結婚当時には半ダースのセットがあったのだが、1つ割れ2つ欠け、やがて全滅した。 リサイクル店で幾つか買い足したが、それも壊れたので、湯飲みやマグカップで代用する生活が暫く続いていた。
先月実家に行った折、物置部屋で未使用のコップを2つ見付けたので、その他の目ぼしい物と一緒に持ち帰った。 デザインは違うが、どちらも少しスリムで少し長い、ちょいとお洒落なコップである。 そのコップで、冷たいジュースを飲んでみた。 「む」 どうした?と主人。 「一寸これで飲んでみてよ」 と主人に渡したが、主人は普通に飲める、何とも無いと言う。 「おかしいな。このコップで飲むと、ちゃぷんって顔に飛沫がかからない?」 「かからない」 即答である。 「いや、私はかかるんだけど」 と言って実演して見せると、主人はぷぷと笑ってこう指摘した。 「それはさ、シオンが飲んだ後に、傾けたコップを勢い良く元に戻すからだろ。それでコップの中の液体が跳ねて顔にかかるんだよ。コップじゃなくてシオンの飲み方の問題だ」 「いや、それは違う! だって今まで使ったコップは何とも無かったもん。私の飲み方は変わっていない筈よ!」 とムキになって反論してみたが、あーハイハイそうだねコップのせいだよねと棒読みで返されてしまった。
コップの1つは、冷たい物を注ぐと色が変わった。 現れたのは、凶悪なご面相の熊の絵と、「Welcome! 21st century」の文字。 いつのオマケだよ……。
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