1日中、何をしていても、頭から離れない。 寝ても醒めても、思うのはその事だけ。 まるで、恋でもしているようだ。
私はブランド物に興味が無い。 それなのに、とあるブランドの鞄に一目惚れしてしまった。 百貨店内をぶらぶらしていて、仮令気に入っても買えないからと、いつもなら目もくれずに通り過ぎるだけなのに、それがふと目に留まった。 松田聖子の言葉を借りれば、ビビビっと来たというやつである。聖子嫌いだけれど。 私に似合う色で飾りが可愛くて変わった取っ手が付いている事で、今まで興味が無くどちらかと言えば敬遠していた形なのに、ハートを撃ち抜かれてしまったのだ。 カ・ワ・イ・イ。 因みにお幾ら?と値札を引っ繰り返すと、お値段約10万円なり。 ム・リ。 後ろ髪をひかれる思いで、私は店を後にしたのだった。
お金に無頓着なダーリンなら、買ってもいいよと言ってくれるかも知れない。 そんな期待を抱いて訊いてみたが、 「10万円!? 本気で買うつもりなの?シオン」 ……そう言われたら、「うん♪買って」なんて言えなくなるじゃん。
欲しい欲しいと思いつつ、再び店を訪れてみると、もうその鞄は無くなっていた。 売れてしまったのだろうか。 はあ〜と溜め息を吐くと、ダーリンが言った。 「あの鞄を可愛いと思うのは、シオンだけじゃなかったって事だよ。そして他の人達には、それを買うだけのお金があって、うちには無かった。それだけの事さ」 その通りなんだろうけれど……。
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