絶えることなき命
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2003年10月26日(日) 「Fates」SS ザクトの絃楼殿レポート


 「Fates」SS  ザクトの絃楼殿レポート






 朝6時起床。
 ドアの向こうではすでに女官たちが働く気配がする。身支度を整えてから部屋を出ると、絃楼殿女官長のパトスさんに会った。見事に真っ白な髪を振り乱し、今日も朝から元気に新人指導に勤しんでいる。齢536。絃楼殿勤続520年の超古株で、当然、天界での長者番付堂々の第一位である。参考までに、天界の女性の平均寿命は460年であることを記しておく。



 執務室で朝刊を読んでいると、何やら部屋の外が騒がしくなる。おそらく女官たちがラディを起こしにかかったのだろう。
 低血圧の彼は寝起きがすこぶる悪い。朝の彼を「悪い」などという形容詞で表現するとその形容詞が可哀相なぐらいだ。どこがどう「悪い」のか、そんなことを説明するのもバカバカしくなるぐらい、とにかく「手に負えない」という言葉を具現化した状態なのである。
 アレを女だけで起こそうということ自体がそもそもの間違いだと思うのだが、我が身内は果敢にも毎朝挑戦し、玉砕している。「学習」という言葉を知らないような年でもないので忠告するのを止めて放ってあるのだが、砕け散った女官たちが必ず私に助けを求めてくるのが日課となってきているので、そろそろこの辺で手を打つべきかと思案している最中だ。
 彼女らは今日も予想を裏切らず私の元へやってきたので、仕方なくとっておきの方法で起こして差し上げた。

 その方法?それは秘密です。真似されても困りますからね。



 首をさすりながら私を睨むラディと朝っぱらから綺麗に着飾ったミルディと合流して朝食を終え、それぞれの仕事に入った。
 私は正殿からのお呼びがかかるまで別の仕事をすることにする。パトス女官長に頼み、絃楼殿内を隅から隅までしらみ潰しに調べさせた。隠しカメラや盗聴器を仕掛けられたかもしれない疑惑が浮上したためである。首謀者は絃楼殿監査のクロベル殿であると思われた。ラディとミルディのお守りだけでも大変だというのに、禿げ茶瓶(ラディ命名)のくせにこの私の仕事を増やすなど文句の一つも言ってやりたいものだが、確たる証拠はないので黙っておくことにした。
 ほどなくしてパトス女官長から連絡が入る。どうやら屋敷内にはそれらしき物体はないとのことだった。発見されれば動かぬ証拠として、それを盾に日頃の鬱憤まで撒き散らすことが出来たのに、少し残念だ。



 執務室に戻ると、ミルディが眉を寄せて舌を出している。どうしたのか訊ねると、あまりにもラディがガバガバと珈琲を飲むので、美味しいのかと思って一口貰ったのだそうだ。ラディは外見に似合わず(というと彼は怒るのだが)ブラック派なので、どちらかというと甘党であるミルディには少々苦かったようである。
 当のラディはというと、図面を前に頭を抱えている。傍から見ると真剣に仕事に取り組んでいるようで感動ものだが、その頭の中に仕事のしの字もないことを私は知っている。また何やら企んでいるようだ。そんなことに頭を使うならばさっさと割り振られた仕事を終わらせればいいものを。

 ラディにそう言おうとしたとき、室内に女官が入ってきた。正殿からお呼びがかかったらしい。期待するだけ無駄だとわかってはいるが、帰ってくるまでに少しでもラディの仕事が進んでいることを祈ってしまう自分に呆れながら、私はその場をあとにした。



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 気が付けばカウンターは1300台後半まで進んでいた…
 えっと、遅くなりましたが、1234Hitsのお祝い&御礼品として、Alto様に捧げます。




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