日々是迷々之記
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深夜にくるくるとテレビのチャンネルを変えていたら、NHKのプロジェクトXが始まったところだった。70年代の本田技研の歩みを特集しており、私は見入ってしまった。
一人の天才・本田宗一郎氏と彼にあこがれる400人の若き技術者達が織りなす物語。これを見て私はカナダに住んでいたときに見たホンダの車のCMを思い出した。「Built with technology, driven by passion」でそのCMはフェードしてゆく。「テクノロジーで作り上げました。情熱を持って体感して下さい。」といった意味だと取った。当時、ホンダの車に乗っていたワタシはとってもミーハー的に感動してしまい、「もうホンダしかないな。」と固く誓ってしまった。
あれから約9年の月日が経ち、今欲しい車はホンダではない。「新車」を考えたとき、とても「Driven by passion」と思える車がないのだ。昔はヨカッタという話に意味はないと思うが、走ることの楽しさを体感できるようなエントリーレベルの車が絶滅して久しい。時代の流れもあるのだろうが、どんなクラスにせよ、どこのメーカーも「走りの楽しさ」を体感できる車はホンの一握りではないか。
右足の踏み込みで回転をコントロールし、意のままに走る、曲がる、止まる快感を得られるのは、3列シートのミニバンではない。自分の収入の中でやりくり出来る価格で、小さなボディに全てが手中であると感じられる自信。そしてコントロールしてやるという期待感。コントロールできたときの達成感。それがエントリーカーの使命だと思う。そこから自分の嗜好を見いだし、乗り換えていったりするのではないか。フルフラットシートや、回転対座はカタログ上を賑わせるスペックでしかない。
それは二輪の世界でも同じことで、ホンダのバイクは年々つまらなくなってきていると感じているのは古くからのバイク乗りならかなりいるだろう。私も3年ほどしか乗っていないがそれでも感じてしまう。来年のニューモデルにはたまげてしまった。なんと20年ほど前のバイクをリメイクして新車として販売するらしい。しかも当時は250ccだったものを230ccにしてだ。このエンジンは、今2車種に搭載されているものだと考えられる。ということは、外装部品は全て当時の物を流用すれば、何も新しいことをせずに新車が発表できるわけだ。
しかも売れると思う。バイク界はレトロブームだ。10代の人たちにとってバイクはファッションであり、就職したらバイクは卒業。そんなスタンスの乗り物に成り下がっている。そこにレトロなバイクを40万円を下回る価格で出したらそれは売れると思う。
でも、そこに、情熱も思想もない。あるのは企業としての損得勘定だ。排気ガスの規制、少子化、レジャーの多様性、いろいろな要因はあるとは思うが、それでもケツの毛を抜ききるまで売りまくる商法はあまり好きではない。オシャレだからと言って、太くて前後同径タイヤを履いたバイクや、3列シート7人乗りの車をそんなに売り出すのだろうか?
しかし北米市場ではいまだに支持されている。特にオフロードバイクはホンダの独壇場だと云えるだろう。それは北米の人は70年代の排気ガス規制法を世界で初めてクリアしたホンダの技術力を認め賞賛し、それにホンダ自身も答え、技術力をフルに生かしたバイクを送り込んでいるからだ。
このままの方針なら、きっとホンダの車に乗ることはないと思う。なんせうちはアウトドアするために車を買うけれど、スポーツ性能、作り込み第一だからだ。車なんて、何に乗ってもバイクよりは物が積めるってわかっているから、乗っている時間をいかに楽しく過ごせるかがキモなのだ。
走る、曲がる、止まる。乗り物の原点はここにあると思う。それは思想、理念の現れであり、マーケティングからは到底生まれようのないコンセプトの根元ではないだろうか。
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