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090314
2009年03月14日(土)




 一晩に三度の悪夢を見る。目覚めてまた一眠りすると、待ってましたとばかりに次の悪夢がやってくる。なじり、なじられ、殴り、撃たれ、喚き、笑われ、脅し、脅され、追い詰め、揺すられる。夢の中で、僕は常に怒りをあらわにしている。誰かを非難している。そうして完膚なきまでに相手を叩きのめすと、決まって手痛いしっぺ返しを食う。そんな際限のない応酬の中で怒りは増幅され、器から溢れた水が辺りを濡らすように、胸の内で徐々に不穏が広がって行く。現実が夢を見させるのか、夢が現実を浸食するのか(あるいはその両方)判然としない。実生活で声を荒げて面罵する場面が増え、それを常態としておかしいと感じないバイアスが存在している。であるので、僕は以前よりも容易く怒声を発することができる。併せて、権利を主張することができる。けれど、僕はその時の自分の顔を決して見ようとはしない。見たくない。


 お前は誰だ。





 『でも僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の言いぶんを無批
 判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中です。自分では何も生み出
 さず、何も理解していないくせに、口当たりの良い、受け入れやすい他
 人の意見に踊らされて集団で行動する連中です。彼らは自分が何か間違
 ったことをしているんじゃないかなんて、これっぽっちも、ちらっとで
 も考えたりはしないんです。自分が誰かを無意味に、決定的に傷つけて
 いるかもしれないなんていうことに思い当たりもしないような連中です
 、彼らはそういう自分たちの行動がどんな結果をもたらそうと、何の責
 任も取りやしないんです。本当に怖いのはそういう連中です。そして僕
 が真夜中に夢をみるのもそういう連中の姿なんです。夢の中には沈黙し
 かないんです。そして夢の中に出てくる人々は顔というものを持たない
 んです。沈黙が冷たい水みたいになにもかもにどんどんしみこんでいく
 んです。そして沈黙の中でなにもかもがどろどろに溶けていくんです。
 そしてそんな中で僕が溶けていきながらどれだけ叫んでも、誰も聞いて
 はくれないんです』





 『俺にはわかっちゃうんだよ、リュウちゃんのしてること。リュウちゃ
 ん、自分みたいな人間がもっと増えて普通になって、あたりまえの人間
 として社会に存在できればいいと思ってるわけでしょ。でも、本人も気
 づいてないかもしれないけど、その裏には、自分みたいじゃない人間は
 減ればいいっていう呪いを感じるよ。じゃなきゃ、リュウちゃんみたい
 な考えの人が、女のカスミさんにあんな頼み事をするはずないじゃない
 か。産む人間とかそれを当然と思ってる人間への復讐だよ、あれは。そ
 ういう現実を根こそぎ否定してる』





 バスは河原町通を北上している。「代理母が許されるなら2人の子を産みたい」昼に別れたばかりのAさんからメールが届く。目が霞んで、僕はその先をまともに読むことができず、めくらめっぽうにTへ携帯を放り投げた。雨が静かに降っている。痛みや怒りや怯えに由来する騒音が止み、随分久しい平穏が胸に滲みた。窓を滴る雫がレンズの役目を果たし、街の灯を実物以上に明るく見せる。ガラスを通した街の灯にぬくもりは感じないが、その冷えたあたたかさが心地良かった。バスは京都の街を駆け上がる。昼に見た桜の枝には膨らんだ蕾がなっていた。この半分眠ったままの日々が過ぎれば、やがて花開き春がやってくるのだろう。そうなれば、もうきっと、大丈夫になるだろう。





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立命館大学衣笠キャンパスで「言語に関する間文化現象学」
ジュンク堂池袋本店で伊藤比呂美トークセッション

ツァイト・フォト・サロンで「マイケル・ケンナ展
『Mont St Michel モン・サン・ミッシェル』」
ニュートロン東京で「大和由佳 展『存在の満ち欠け』」
国立新美術館で「アーティスト・ファイル2009 -現代の作家たち」
ギャラリー・アートアンリミテッドで「齋藤芽生 遊隠地/百花一言絶句」
ラットホール・ギャラリーで「ロー・アスリッジ Goodnight Flowers」

塚本靖、高橋貞太郎【旧前田公爵邸】
岡田信一郎【明治生命館】
アントニン・レーモンド【カトリック目黒教会】


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絲山秋子「沖で待つ」
三田誠広「僕って何」
向田邦子「夜中の薔薇」
村上春樹「レキシントンの幽霊」
星野智幸「われら猫の子」

読了。





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