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0809
2008年07月01日(火)




 岬の突端にいる。風が吹くたびにただれて捲れ上がった皮膚が痛む。よろめき倒れそうになり、必死で地面にしがみつく。よるべなさと危うさが打刻する。顔のひきつりがおさまらない。

 修繕に修繕を重ねた仮面の綻びを指摘されたようで恐かった。「もっとゆっくり話して」すっかり打ち解けて話せたと思ったのに、Nさんを通してあとからそう伝えられると、ぐらりと足下が揺れるような気がした。受容が先にありきで、自分のペースを崩すことのない者が羨ましい。受け容れられるわけがないと諦めた上で、狭い隙間にたくさんのものを詰め込む焦りと苛立ちを彼らは知っているだろうか。僕もきっと愛されて育った筈だろうに、この彼我の差はどこで生まれたのだろう。「そんなことないのにね」Nさんの言葉をぼろぼろになるまで反芻する。





 おずおずと差し出される手が好きだ。朴訥な語り口が好きだ。多勢にかき消されてしまう小さな声が好きだ。弱さは美しさだ。

 『もしそれを個性と呼ぶとしたら、いや、ぼくにはそう呼ぶしかないか
 ら個性と言っておきましょう、話が面白いとか、気が利くとか、そうい
 う見やすい部分とはべつの、身体ぜんたいにまとわりついてる空気みた
 いなものなんですね。だから、きみには個性がない、自分らしさがない
 なんて、上からものをいうような連中はどうも信用できない。個性は、
 他者の似て非なる個性と、静かに反応するんです』





 あるいはそれすらも自己憐憫の情でしかないのだろうか。僕はきっと(他人に)優しくなんかない。


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ワーナー・マイカル・シネマズでアンドリュー・アダムソン
「ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛」
池袋新文芸坐でシェカール・カプール「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
下高井戸シネマでマーク・フォースター「君のためなら千回でも」
早稲田松竹でマルジャン・サトラビ、
ヴァンサン・パロノー「ペルセポリス」
山村浩二「カフカ 田舎医者」

森美術館で「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」


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橋口亮輔「小説ハッシュ!」
角田光代「おやすみ、こわい夢を見ないように」
堀江敏幸「河岸忘日抄」

読了。





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