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| 2004年04月10日(土) ■ |
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| 10+コンサートホール |
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崩れてなお美しい円形の建物だった。 大きく半球を描いていたであろう天井は既になく ステージであったその場所からは 星空が観客達の拍手の様に思えた。
彼は此処でぼんやりとしているのが好きだった。 ただ無為な時間をやり過ごしているその背中が とても寂しく見えて哀しくなった。
夜になるといつの間にか部屋からいなくなって まだ小さかった俺は泣きそうになりながら 街の中を探して走り回っていた。 街の中に彼がいることを願いながら 隅々までずっと。
何度かそんな事が続いて 彼を見つけ出せない夜もあって けれど明け方、部屋に戻れば 彼は決まって眉間にしわを寄せて 寝苦しそうに小さなソファに横たわっていて…
やっとコンサートホールで小さな背中を見つけた。
声を掛けられなかった。 独りで空を見上げて口ずさむ歌は 時々無意識に彼が歌う歌だった。 歌詞も理解しないで寂しい歌だと思ったのは 歌っている声が途切れ途切れで …切なげに掠れるから。 彼が気づいてくれるまで 俺はそこを動けなかった。
それからは毎晩そこに通った。 出かけるのは勿論、帰ってくるのも別々に。
彼はただずっと煙草を吸うだけだったから まだ煙草もおぼえていなかった俺は ただ馬鹿みたいに彼から少し離れて座っていた。
ある晩だった。 その日はコンサートホールにもいなくて 街中に出たらタクシーを拾う姿を見つけた。 必死で追いかけた。
そしたら彼はやっぱり一人で哀しそうだった。 彼すら泣いていないのに なぜか俺は泣きじゃくり 「帰ろう」と駄々をこねたのを覚えている。
あの次の晩だったと思う 最後にコンサートホールへ来たのは。 その日もやっぱり別々に部屋を出た けれど帰りは一緒だった。
「帰るか。」 そう言ってはじめて出逢った日の様に 少しだけ微笑んだ笑顔が、今でも忘れられない。
「帰ろうよ、ケイ。」 独り言をつぶやいても それを聞いているのは空の観客席だけだった。 今は雲に隠れて星すらも見えない。
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