みかんのつぶつぶ
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2004年04月02日(金) 誕生日



花も終わり葉も枯れ果てて、冬の間放置して荒地のようになっていたプランターのひとつに、すみれが咲いた。去年、他の花がひしめくその片隅に植えておいたのだった。すみれは、父がよく春の山へ散歩へ行くと摘んできては小さな鉢に植えて育てていた。なので物心ついた頃から私は、すみれを見つけると「お父さんの好きな花だ」と、ちょっぴり嬉しくなったりするようになった。この歳になっても相変わらず、父に咲いたと報告したくなったりする。


時々ベランダの柵に鳩が飛んでくる。子ども達は嫌がってすぐに追い払うのだけれど、私はどうしても邪険に追い払うことができないでいる。今日も冷たい雨降る空を羽ばたいてやってきた1羽の鳩。鳩を見つめながらいつも病室でのことを思い出す。


「鳩になって帰っておいでよ」
この言葉をとっさに口から出していた。何か言わなくちゃと思っていた。あれはあの日は、私ひとり呼ばれて、脳と脊髄に点在する腫瘍のMRI画像を目にし、余命はそう長くはないと告知されたのだった。
もう、家に連れて帰ろうと本気で思った。
窓の外にいる鳩を二人見つめ無言になってしまった。
彼に言えない、言わない。言わなくては。迷いで言葉少なになった。
彼も、何かを悟っていたのかも知れない。


空を飛べば病室から家までとっても近道。
自宅に飛んでくる鳩は、もしかしたら病院にいる鳩たちじゃない?と彼に聞いたかも知れない。同じ鳩が飛んでくるのだから、家にいるのと同じだよと、子供を誤魔化すように慰めていた私。完全にパニックだった。


心を想いを鳩にのせて、帰っておいでよ。
キミの身体を吹きぬけた風は、下校する娘の頬を触るだろう。
キミが見上げる空の続きには、校庭を走る息子がいるだろう。
一人じゃないよ、みんな忘れてないよ、と、言葉にすれば良かった。手紙でも良かった。ちゃんと、伝えれば良かった。


キミの生まれたこの季節は、生命の芽吹く陽射し優しい季節ですね。










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