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雨の香り - 2008年08月18日(月)

「こんな天気なのに自転車に乗ってくるなんて...」
「風邪でもひいたらどうするの?」
「これでも心配してるんだからさぁ。」

「うるせぇ、おめーはおふくろか。」

「どーすんの、まだ時間あるよ。」

軽口をたたきながら、コーヒーショップにはいった。
トレイには、コーヒーのカップが2つとサンドイッチが3つ並んでいた。
相変わらず目を合わせるのが苦手だ。コーヒーに目をやったり、タバコの煙を追っかけて天井を見たり。体をはすに構えて外を眺めたりしていた。
「ちょっとぉ、人が話をしてるときくらいこっちみなよぉ。」
「でさぁ、変な男がいるのよ。」
「毎朝、挨拶のメールだけ送ってくる奴とかさぁ。」
「一度メールもらった相手からもう一度『はじめまして』とかって、メールがきたりとかさぁ。」
「ネットってそんな奴ばっかり。」
笑って相槌を打つしかなかった。

下に目をやると、きらきらした飾りのついたサンダルが目に入った。
「を、おニュー?」
「やだ、君、それ死語。」
「似合うでしょ、店で私の事、呼んでたんだ。」
「そう、これでも気合入れたんだからね。」
「『お姉さん、買って行ってよぉ』って?」
「なにその時代劇の郭みたいな口調。」
「せっかくのお洒落もこんな雨の日におっさんの相手じゃもったいないよなぁ。」
「他に誰に見せるのさ。」

外が急に明るくなり、次いで轟音がした。振り向くと、雨は勢いを増していた。
「あらら」
「自転車もおニューのサンダルも台無しだね。」

「んじゃ、行こうか」
席を立った。トレイの上には、手のついていないサンドイッチがひとつ残っていた。
そのままカウンターで紙袋をもらい、サンドイッチをその中に入れて君は追いかけてきた。
「はい、夜食。」
紙袋を押し付けて、君は前を歩く。
チケットを係りに渡してゲートをくぐる。

金のかかったアクション映画がスクリーンに広がる。展開が速すぎて、いまひとつ入り込めないまま時間が過ぎていく。

入り込もうとすると、君とは反対側の席で鳴る携帯電話の着信音が水をさす。
視界の端に、手を目の前で合わせて映画を見ている君の姿が目に入る。表情を覗き込むわけにも行かず、楽しんでるといいなと考えつつ、スクリーンに目を戻す。
時折、君の髪の香りが空調の風に乗って鼻腔をくすぐる。
このまま寝られたら、よく寝られるかもしれないと、不埒な事を少し考えた。



...




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