Sun Set Days
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2004年01月21日(水) 『誰も書かなかったウォルマートの流通革命』+『博士の愛した数式』

 まずは、20日に読んだ本から。

『誰も書かなかったウォルマートの流通革命』読了。鈴木敏仁著。商業界。
 これは、アメリカ在住の著者がウォルマートの強さの本質を人と企業文化にあると喝破し、それに焦点を当てて書いた本だ。その企業文化とはお客第一主義とでも言うことのできるものであり、そのために行っている様々な具体的事例を説明している。たとえば、特売ではなく毎日同じ安い価格で商品を提供することであるEDLPも、お客第一主義を進めたがために必然的に行き着いた方策なのだということになる。つまり、物流コストを抑えたり、ベンダーとのコラボレーション型取引を行うことによって原価を押し下げ、その分店頭での価格を下げていくことを繰り返し続けているというのも、お客はいつだってより安く商品を買いたがっているというお客第一主義に基づいているということになるのだ。

 本書では、ウォルマートの歴史や成り立ちについてはほとんど語られず、強い人と企業文化がどのようなものであり、それによって現在何がなされ、これからさらに何がなされようとしているのかといったことが説明されている。また、流通業の専門用語も結構頻発しているので、ある程度業界用語等に詳しく、ウォルマートの概略をわかっている人の方がより理解しやすいということができるのかもしれない。
 そして、それらの条件を満たしているのであれば様々なデータなどが掲載され、具体的な記述が多く、読み応えは充分と言うことができる。ウォルマート関連の本を数冊読んで同じような内容のものが多いなと感じている方にはお勧め。

 本書を読んで感じたのは、やはり企業文化の重要性だ。創業者の掲げたビジョンを、後継者たちがかたくなに守ろうとし続けること。よい意味での社風のようなものが従業員たちに共有され、浸透していること。自分たちが何のために仕事をしているのかをしっかりとわかっていること。それらのことがやはり非常に重要なのだと改めて考えさせられた。企業が成長し、大きくなっていく中で、そのようなものは徐々に薄まっていき、大企業病であるとか、セクト主義のようなものがはびこり始める。企業がまだ小さかったうちはトップの顔が見えるし、その言葉も直接響くけれど、徐々にトップの顔が見えなくなり、目指すべき方向がぶれてくる。そういったことはどこの企業でも起こりえることだ。だからこそそれを避けるために、たとえばウォルマートでは幹部を毎週本部に集め会議を開くのだし、衛星放送網を活用して店舗に様々な声を投げかけ続ける。また、幹部が週に数回現場を必ず訪れることを奨励している。そのようなことの地道な積み重ねでしか企業文化の熟成はなされないのだろう。


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 次に、21日に読んだ本を。

『博士の愛した数式』読了。小川洋子著。新潮社。
 帯にはこう書かれている。


 世界は驚きと歓びに満ちていると、博士はたった一つの数式で示した――
 記憶力を失った天才科学者、と私、
 阪神タイガースファンの10歳の息子


 この帯に興味を惹かれて書店でぱらぱらと読んで、部屋に帰ってからAmazon.co.jpで注文した。それが届いて、さっそく読んでみた。
 面白かった。淡々と進む物語は、去り行く人との思い出を丁寧に描き出していて、空気の匂いのようなものを形にしていた。この、空気の匂いのようなものを正しい重さで描き出すというのはきっと難しいことで、だからこそ印象的な物語になるのかもしれない。
 事故による後遺症で記憶が80分しか持たない天才数学者と、その博士の家の家政婦をすることになったシングルマザーの「私」。博士は自分の服にたくさんのメモをクリップで留めている。《僕の記憶は80分しかもたない》、《新しい家政婦さん  と、その息子10歳√》などだ。80分ごとに記憶を失ってしまうために、自らの置かれた状況を確認し把握するためにそうしているのだ。だから「私」は、毎日仕事場を訪れるたびに、はじめてであったかのように挨拶を交わすところからはじめなければならない。博士は、自らの病気のことを自覚していて、だからこそ人とうまくコミュニケーションをとることができず、握手や挨拶のかわりに数字の話をする。たとえば誕生日を訊いてその数字(220)と他のもう一つの数字(284)が示す関係の意味を説明したりするのだ。「私」は博士が数字について話してくれるのを興味深く聞いている。
 やがて、博士は「私」に10歳の息子がいることを知り、子供は一人でいてはだめだと半ば強引に家政婦の仕事をしているときに息子を一緒にいさせるようにする。博士は息子を頭の形が似ていることから「√」と呼び、とても可愛がる。
 物語は、その三人のふれあいを描いている。外の世界についてはほとんど書かれず、博士と私とルートの三人の世界が中心となる。その世界ではゆっくりと時間が流れ、世界のすべては博士の語る数字によって独特の秩序と平穏とを与えられる。
 淡々とした物語なのだけれど、読んでいると博士のリズムに影響を受けてしまう。失われる予感が雨をたっぷり含んでいまにも振り出しそうな雨雲のように満ちていて、だからこそ穏やかな時間の流れの中に異なる影を見てしまう。けれどもこの物語の中では、せつなさでさえ正しい重さで、それこそ直線のようにまっすぐと伸びていくのだ。
 穏やかでも力強く、読み応えのある物語だ。


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 先週の土曜日は、仕事が終わった後15人で飲みに行った。
 その日は雪が降っていて、北海道基準で言うと全然普通の雪だったのだけれど、何人かは「このままじゃ電車が止まるかもしれないね」という話をしていた。
 関東の電車は、本当に驚いてしまうくらいの雪でも止まってしまうのだ。
 飲み会が終わって、0時くらいの電車を駅のホームで待っている間にもまだ少しの雪が降っていた。散るように降るわずかな雪。
 僕にとってのこの冬最初の雪だったのだけれど、深夜の駅のホームから見る雪は、電灯の明かりの色に溶けてとても印象的に見えた。
 雪は積もることもなく、次の日にはその痕跡すら残ってはいなかったけれど、とりあえず今年の冬も雪を見ることはできたのだとぼんやりと思った(まあ、今年は実家に帰っているので関東でもということになるけれど)。


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