Sun Set Days
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2003年07月16日(水) Morning Stories

 今日はちょっと早起きをして、出勤前に24時間営業のファミリーレストランで仕事をしていた。
 ちなみに、午前4時にはもうテーブルに座っていて、やけに早い朝ご飯を食べていた。ドリンクバーを何度か取りに行って、シャープペンシルを動かしながら働き者のアライグマのように黙々と仕事をしていたのだ。その間も、壁に掛けられた大きな液晶テレビではNHKの衛星放送が流れていて、時々思い出したように2人組や3人組の男女が入ってきていた。早朝の4時とか5時になんでファミリーレストランに来るのだろう? とかぼんやりと思いながら、自分の方こそ怪しいかと思ってみたり。早朝なのにスーツを着て、テーブルの上にたくさんの紙を広げていたのだから。

 変な酔っぱらいはいなくて、店内は随分と静かだった。店に入ったときには窓の外はまだ随分と暗くて、そのせいか結構集中することができた。朝早くに起きてファミリーレストランで仕事をしようと思ったのはただのちょっとした思いつきだ。午前1時に眠って、起きたのは午後3時だったから、もちろんかなり眠たかったのだけれど、それでも普段とちょっと違うスケジュールになんとなくそのままシャワーを浴びてしまった(シャワーを浴びたら、そのまま起きていようということになる)。別に寝ていたってよかったのだけれど、それでもたまにそんな強行スケジュールを立ててみたりするのが楽しく思えてしまう部分があるのだ。そういうところは年をとってもなかなか変わり難い部分で、もう若くないのだからとは思うのだけれど、それでもネクタイをしめて、メモリースティックにダウンロードしたMYAを聴きながら、午前4時にファミリーレストランを目指したのだった(ちなみに、MYAは90年代半ばくらいのスタンダードなR&Bといった感じのなかなかよいアルバム)。

 午前5時になる頃には窓の外はもう随分と明るくなっていて、照明を落とした店内は影絵の幕の裏側みたいだった。壁掛けテレビのニュースでは、海兵隊出身の男がネットで知り合ったイギリスの12歳の少女を連れ回しているのだということを繰り返し伝えていた。何度かドリンクバーを取りに行って、ごくごくと飲みながら、ふうと一息つく。まだまだ出勤時間までは間があって、なんだか時間を有効に使えているような気がして嬉しくなる。もちろん、睡眠時間を削っているのでトータルで見るとプラスマイナスゼロというような感じもしないではないけれど、それでもなんとなく時間の流れ方が穏やかで、悪くないように思う。そういうのってきっと大事だ。他愛もないけど嬉しいとか、なんとなく悪くないとか。

 衛星放送のニュースを見ながら、学生時代に付き合っていた恋人のことを思い出していた。当時の恋人が住んでいた学生マンションには衛星放送のアンテナがついていて、彼女の部屋のテレビでは衛星放送を見ることができたのだ。それで朝とか夜には、よく衛星放送がかかっていた。その小さな赤いテレビでは、世界のニュースのダイジェストが繰り返され(NHKの衛星放送のニュースは、同じようなニュースを何度も繰り返し流すのが特徴なのだ)、世界にはシリアスじゃない側面だってたくさんあるのだということを感じたりもしていた。地球の半分が日中だとしたら、残り半分が夜であるように、悪いニュースの反対側には、良いニュースだって必ずあるはずなのだ。そんなふうに思えるような世界の他愛もないニュース。もちろん、政治や紛争などシリアスな側面もその画面は映し出していたけれど、いまでも印象に残っているのは川を棒高跳びで越える競争の話とか、そういう暢気なものだったりする。

 そう言えば、当時彼女の部屋で風邪を引いて寝込んでいたとき(彼女は学校に行っていた)、その小さなテレビで、野茂の大リーグの試合を見ていたのだ。その試合で野茂は完全試合(ノーヒット・ノーラン)を達成し、僕は帰ってきた彼女に興奮して完全試合をリアルタイムでテレビで見たのだと話したのだった。野球にあんまり興味がなかった彼女は、あんまりなんとも思っていなかったみたいだったけれど。
 その当時はまだ野茂だけが大リーガーだった。けれどもいまはイチローや松井もスタジアムにいて、僕自身もその頃住んでいた町とは随分と遠いところにいたりする。そういうのって、なんだか随分と変な感じだ。時間は確実に流れていて、なんだかんだあっても日々は穏やかにたのしい。

 それから、もう一つ思い出した。数年前、別の恋人(遠距離)と付き合っていたとき、その彼女の地元に泊まりがけで遊びに行ったことがあった。そのときも5時くらいに朝のファミリーレストランに入り、一緒に朝ご飯を食べた。彼女の車で駅まで送っていってもらおうとしたときに、そのファミリーレストランの出口の所で前に停まっていた車が操作を誤っていきなりバックしてきて、彼女の車にぶつかってきたのだ。どん、という鈍い衝撃があって、一瞬何が起こったのかわからなかった。それから、僕は車を降りて、前の車の運転手になんだよいまのはというようなことを言った。そっちがバックしないからとかわけのわからないことを言ってきたから、どう考えてもお前がおかしいだろうというような話をして、警察を呼んだ。そして、相手のナンバーを控えてから警察を待つ間、彼女の車の中で並んで座っていた。

 やがて警察が来て近くの派出所に行って、住所などを聞かれた。僕の住所がかなり県外だったために警察官に随分と驚かれ、なんだか別に悪いことをしているわけでもないのにバツが悪かったりもした。
 結局、修理費は相手が全部持つことになったのだけれど(当たり前)、後になって車がぶつかったときに落ち着いてもらおうとおもって彼女の手に触れたことが、何かのスイッチを押されたみたいに落ち着くことができたのだという話を聞かされて、そういうのって不思議だよなと思ったりもした。

 ファミリーレストランはいたるところで訪れているから様々な記憶に溢れているけれど、記憶は本当にささやかなことから繋がっていく。時間も関係なく、脈絡さえなく、不思議とランダムに記憶が蘇るのだ。
 だから今朝も仕事の合間に早朝のファミリーレストランでドリンクバーのアイスコーヒーを飲みながら、一見全然関係ないことを思い返していた。これからもいろんな記憶を思い返す瞬間があるのだと思う。昨日や今日体験した(体験する)いくつものことも、同じようにいつかランダムに思い返される記憶となっていくのだろう。

 そういうのって、悪くないと思う。


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 お知らせ

 2時間の睡眠時間なのにDaysを書いている場合ではないとは思うのですが、こういう記憶はしばらくするときれいさっぱり忘れてしまうと思い書いておくことにするのでした。明日も仕事なので眠ります。


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