Sun Set Days
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2002年06月02日(日) Night/Little Station/Dawn/Morning+『ウォルマートの真実』

 今日のDaysは新大阪発21:28、博多着23:57ののぞみ27号のなかから。

 まずは恒例の、昨夜ビジネスホテルで夜中書いてアップしようとしてそのまま眠ってしまった分から。


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 6月1日 土曜日


 朝5時台に最寄の駅を出発し、6時30分のひかりで大阪へ出発。
 まだ早朝の新横浜のホームで、キャリーバックをがらがらと引きながら、ここ数ヶ月の間に何度このホームに上ってきただろうと思う。
 今年のシーズンの最初の頃はまだ随分と寒くて、吐く息も白かった。
 でも今では、ホームには半袖の人さえいる。
 夏がもうすぐ来るみたいだ。
 いつの間にか、一つの季節(「春」)を通り過ぎてしまっていて、なんだか不思議な気持ちになる。
 でもとりあえず売店で買ったスポーツ新聞(「フランス敗退とか」)と日本経済新聞(「ムーディーズの格付けとか」)を読みながら、後輩がやってくるのを待つ。
 新幹線のホームでの待ち合わせって、何だか少しだけ風変わりなことのような気がする。
 まあ、それはそれで別にいいかなとも思うのだけれど。

 昨夜眠りについたのが午前2時過ぎであんまり眠っていなかったので、新幹線の中で珍しく眠る。睡眠は大切だなんてことは中学2年生でもわかる。
 中学2年生でもわかるくらいのことを、いまだにちゃんとできていないのかと学習能力のなさにちょっとだけおどろく。
 そう言えば、はじめて徹夜というものをしたのも、ちょうどそれくらいだった。
 あれから何度徹夜をしたことだろう。
 何度も何度も夜通し起きていた。
 朝になる部屋の薄青い空気のなかで、ぼんやりとしているのが好きだった。
 そういうことを思い出したりもした。
 もう10年くらい前の話。
 自分がそんなことを書くことができるような年齢になってしまったことに、たまにちょっとだけ驚いてしまう。


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 数年前、まだ大学生だった頃、僕はよく夜更かしをしていた。
 1人暮らしをしていたことと深夜1時までカラオケボックスでアルバイトをしていたことと、それからまだ学生だったこととで、定期的に生活の周期が逆転する時期があったのだ。
 そういうときには、夜の底、あるいは朝のはじまりの時間によく1人で散歩をした。
 一度、闇雲にどんどん町外れまで歩いていって、結局途方もないくらい遠くまで歩いてしまって、始発のバスで最寄り駅まで帰ってきたこともある。
 またあるときには、この道路をまっすぐ歩いていったらどこまで行けるのだろうとかわけの分からないことを考えて、2時間くらい歩いていたこともある(これはよくみんな思うことだろうけれど、実際にする人はたぶん多くない……)。
 1人でそんなふうに朝の曇天の下を歩いているときには、どうしてか人生は自分の力でしっかりと歩いていかなければならないものだと大げさに意識してみたり、訪れたこともない空想の海辺の町なんかの雰囲気を重ね合わせてみたりすることができた(そのときは、実際には山間の方へ向かって歩いていたというのに)。夜更かしは人を感傷的にするし、まあ元々がそういう性質でもあるのだ。

 そして、ある夜更かしの末の散歩の朝に、小さな私鉄の駅までたどり着いたことがある。そこは無人駅で、まだ始発すら通っていなくて、誰の姿もなかった。
 ただ、ホームにのぼるための数段のコンクリートの階段があって、その手前の右側には電話ボックスと自動販売機が性格の違う兄弟みたいに並んで立っていた。線路の先には畑が続いているような、そんな町外れの光景。
 自動販売機で飲み物を買って(何を買ったのかはもう覚えていない)、ホームへ上がるための階段に座り込んでそれを飲んだ。
 ときおり、目の前の道路をヘッドライトをつけた自動車が通り過ぎていった。
 こういう名前の駅があることは、最寄駅にかかっていた路線図で知っていた。
 その場所に早朝の早い時間に自分がいることがまだよくわからなかった。
 変な感じだ、そう思った。
 ただずっと歩いていただけで、実際にこんなところまで来ることができてしまう。
 ときおり、近くの家の人なのかおばあさんやおじいさんや、おばさんなんかが歩道を歩いていくのが見えた。
 徹夜明けにはときどき、この世界には眠気なんてものは存在しないというように思えたりする時間があるけれど、そのときもそんな瞬間のひとつだった。感覚が鋭敏になっているような気がして、なんだか世界ってすごいなあと夜から朝になるすべての微細な変化が、ものすごくかけがえのない、神秘的なことのように思えてしまうような時間。昔フランス映画に『Tous les matins du monde』という作品があったけれど、直訳すると「世界中のすべての朝」になるそれが『めぐり逢う朝』という邦題になっていたこともわかるような気がするような、そんな朝。そういう時間帯が英語ならdawnっていう単語になることも、イメージに近いと思う。

 そしてゆっくりと、明るい朝が訪れようとしていたのだった。

 一瞬、目の前にある公衆電話から当時の恋人に電話をかけようかなとか思った。いま自分がどういうところにいて、どういうふうに思っているのかを誰かに伝えたいような気がしたのだ。
 当時付き合っていた人はかなり現実的な人だったけれど、そういう感覚は理解してくれる人だったし。
 でも結局は電話をかけることはしなかった。
 いくらなんでもまだ朝の5時くらいだったわけだし。そんなことで起こされるのってちょっと乱暴なことだし。
 僕は個人的に散歩は1人で行きたがる人だけれど、たぶん散歩っていうのが実は随分と自己満足的な行為であるとどこかでは思っているからなんだと思う。
 だからあくまでも個人のなかでだけ完結したものにしようと考えているのだ。
 そういう個人的な行為につき合わされるのって、ちょっと困ってしまうし。
 感傷的になることは悪いことじゃないとは常々思っているけれど、それに周囲の人を巻き込んでしまうことは結構な割合で自己満足だからしたくないのだ。
 自分が感傷的になって、それでどこかでバランスをとって、また現実的な世界で頑張ることができるのならそれはそれでオーケーという気がするし。
 まあ、Daysにいろいろ書いてアップしているというのはじゃあどうなるんだと言うとちょっと困ってしまうのだけれど。
 特殊なケース。
 読んでいる人がいるというのは、随分と不思議な感じがすることだ。

 いまでは、さすがにそこまで突拍子もない散歩はしなくなったけれど(たぶん少しは成長しているのだ)、それでも、ときどきはそういった夜や朝のことを思い出す。
 ああいう時間があってよかったと、いまになってときどき思う。
 わりと本気で。


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 6月2日 日曜日


 いま、新幹線は夜の広島駅を過ぎたところ。降りていったサラリーマン3人組の顔の色は紅くて、たぶんビールを飲んでいたのだと思う。
 上記のように土曜日から大阪にいて、今日も大阪で20時過ぎまで仕事をしていて、それから新大阪駅に向かい新幹線に乗り込んだ。
 博多4泊5日。
 1日休日を挟んで大阪出張の予定が入っているので、九州か大阪で休日を過そうかなとも思っているのだけれど、いまのところはまだ未定。いずれにしても、お約束のロードだ。
 行ったことのない小倉とかに行ってみるのもいいかもしれないとかいろいろ思う。
 キャナルシティ(個人的に結構好きなショッピング・センター)にある映画館で観たい映画(『愛しのローズマリー』と『少林サッカー』)を観てもいいかもしれない(来週なら『アイアムサム』を観るのに)。


 そして、今日の最後は新幹線の中で(ようやく)読了した本について。


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『ウォルマートの真実 最強のIT最大の顧客満足』読了。西山和宏。ダイヤモンド社。
 3月14日のウォルマートによる西友の株式取得の発表以来、様々な雑誌でウォルマートに代表されるグローバル・リテイラーについての特集記事が組まれている(たとえば先週発売していたNewsweekもそう。いつもは買わないのについつい購入してしまった)。本書も、基本的にはそういった流れに乗って出版されたタイムリーな本。ビジネス系の書籍って、本当にちょっと話題になるとすぐにハードカバーや新書が発売されたりするので、そのスピードにはときどき驚いてしまう。もちろん、執筆期間の短さと内容とは反比例するのかもしれないけれど、スピードに対する優先順位は高いのかもしれない。
 本書は大きく2部構成になっていて、第1部では「ウォルマートの衝撃」と題し、ウォルマートの成功の舞台裏やそこにいたる沿革、それからトピックスを網羅している。続く第2部は「ウォルマートのライバルたち」と銘打ってフランスのカルフールやオランダのロイヤル・アホールド、そしてイギリスのテスコなどを紹介している。
 内容的には、事実やデータの掲載や解説が多く、このスピードでこういう書籍が出たというのは概略に触れることができるという意味でタイムリーだったと思う。
 逆に、これだけのことを調べられていた著者の情報のストックが豊富だったということなのかもしれない。
 ウォルマートって最近よく名前を聞くけれど一体どこがすごいのだろうと思う人は、この一冊を読めばウォルマートを中心とするグローバル・リテイラーのことが大体分かるような気がするので、便利な本なのじゃないかと思う。
 ただし、前述のように基本的にはこのようなことがやられているという事実や特徴の説明が大半なので、ある種の主張や論の展開などをもとめている人には向かないかもしれない。
 個人的には面白かったけれど。

 本書に紹介されている内容のなかで、面白いと思ったところをいくつか。


 ウォルマートの従業員には、守るべきルールがある。
「今日できることを、なぜ、明日に延ばすのか?」という創立者サム・ウォルトンの口癖から生まれた「サンダウン・ルール」である。
 これは、その日のことは太陽が沈む前に片づけなさいという意味である。ウォルマートの従業員は顧客が忙しい世界に生活していることを知っている。「サンダウン・ルール」は「(顧客か従業員かを問わず)個人に敬意を払う」「顧客にサービスする」「優れたことを成し遂げる」というウォルトンの三つの基本的な信念の基盤でもある。(16ページ)


 従業員(ウォルマート流の呼び方で言うとアソシエイツ)たちがこのようなことを日常的に守っているのであれば、その会社のコーポレート・カルチャーのレベルは正直な話とても高いと思う。
 また、個人に敬意を払うということに関連して、店舗の入り口にいる来店した顧客にショッピング・カートを渡しながら挨拶する人(グリータ)や、積極的に顧客サービスを行うことを示す「10フィート応対(10フィート以内にいる顧客に声をかけられるよりも先に声をかけること)」も紹介されている。

 また、ウォルマートの強さの秘密としてよく引き合いに出されるのがペンタゴンの次に進んでいると言われているIT技術だ。本書では、その技術によって、何千店舗もの店舗で個店別品揃えが実施されているとも書かれている。


 当然のことながら、これらの店舗の立地、競合状態、客層などは同じではない。すべての店舗で売上げと利益の最大化を目指すとき、これも当然のことながら、店舗ごとに適切な商品構成が必要となる。
(……)
 売り場面積、商圏人口構成、家族構成、世帯所得など基本的なものに加えて、山岳地帯または海岸地帯などの地理的条件、学校や病院の有無、競合店の店名、また、生鮮食品、デリカテッセン、ファマシーなどの部門構成などに関するデータベースを持っている。
 商品ごとの特性もデータウェアハウスに入っており、店舗と商品の特性を表わすファクターを数千項目設定しているといわれている。
 数千項目のファクターをコンピュータに分析させて発注数量を計算する。このとき、過去二年間のヒストリック・データを参照する。販売が見込めない店舗には納品しない。過去に販売実績がない新商品では、類似商品のデータを援用する。
(……)
 部門マネジャーは、RFターミナルと呼ばれるワイアレスのハンド・ヘルドコンピュータの画面にバックルームコンピュータから担当カテゴリー商品の提案された発注数量を表示させ、必要と考えられる修正を加え、発注数量を最終的に決定する。
(……)
 部門マネジャーが発注を行なうと、商品補充システムは、商品ごとに販売トレンドとサプライヤーからのリードタイムを考慮して、次回、その商品の店舗在庫チェックと発注を検討すべき時点(日付)を設定する。
 発注商品が配送センターから出荷されると、その商品の発注に輸送中のマークがつけられ、店舗に到着すると、納品済みのマークがつけられ、発注プロセスは完了する。このプロセスで発生した保存する価値があるデータは、データウェアハウスに保存される。(99-101ページ)


 僕自身、ここに書かれていることを正確に認識しているわけではないのだろうけれど、それでも想像するようなものと同じであるのなら、これは本当にかなり便利な仕組みだと思う。と言うか、ここまでの仕組みを構築しているような企業に勝つことなんて、なかなか難しいことだ。実際のところ。
 こういうのを読むと、本当に早く現場(店舗)に戻りたいなと思う。何ができるのかはわからないし、たいしたことはできないかもしれないけれど、それでも、もっとよい店舗を作るためにはどうしたらいいのかとは考えていきたいと思う。
 そして、ちょっとおもしろかった部分を引用。


「顧客の期待を超えたサービスを行うこと」とは、この皿は丈夫かと質問されたら床に投げて壊れないことを証明して見せ、雪掻き用スコップの柄が折れたときには返金することである。(17ページ)


 ここまでやるのか、とか思うし。すごい。


 そして第2部では、様々なグローバル・リテイラーについての解説が行われているのだけれど、そのなかでも特に印象深かったのがイギリスのテスコ(「ロープライスではあるが、ハイセンスな売り場でハイサービスを提供。ITを駆使したコスト削減で高い顧客満足度を得ているスーパーマーケット企業。eコマースでは世界最大の利益をあげている企業:223ページより)についての紹介。たとえば、こういうところ。


「特売商品約束」もし、特売商品が品切れしていたら、従業員にいうと特売商品提供バウチャーをくれる。次回来店のとき、このバウチャーを提示すれば、その商品を同じ特売価格で購入できる。(242ページ)
 ※これは、アメリカのチェーン・ストアで行われている「レイン・チェック」と同じもの。日本ではほとんど見たことがない。


「返品ポリシー」購入した商品に満足できなかったときには、4週間以内にレシートを持参すれば、家電製品、家庭用娯楽機器、携帯電話であっても返品に応ずる。また、商品代金をまちがえて多く請求したときには、代金を返し、商品を無償で差し上げる。(242ページ)


「セーフ・チャイルド」すべての店舗に迷子探しのために特別訓練を受けたことを示す「セーフ・チャイルド」バッジを着けた従業員が配置されている。(242ページ)
 ※訓練受けたい……迷子探しの特別訓練だなんて、興味ある、すごく。テキストには、子供が隠れていそうなところとかいう見開きページがあったりするのだろうか?


「幼児同伴顧客用駐車場」障害者用の駐車スペースは珍しくないが、テスコには、幼児同伴で来店したとき、簡単かつ安全に店舗に入れるように、全店舗に専用の駐車スペースがある。特に雨の日には感謝される。(242ページ)


 よく「顧客サービス」という言葉が引き合いに出されるけれど、こういうのを読むとやっぱり欧米の流通業にはまだまだ進んでいる点が多いのだなと思う。そして、最後の方に書かれているこの文章はまさにそうなのだろうなと思う。


 今日のウォルマートは、「ロープライス」ではあるが「親切な顧客サービス」も提供する。「ビッグ・ブランド」である。顧客は、商品を選択する前に、店舗を選択する。選択される店舗になるためには、それなりの努力と実績が必要である。
 顧客に信頼されるための活動を「ブランディング・ザ・ストア」という。ブランドは、商品だけでなく、店舗にとっても重要である。(301ページ)


 世界第2位の消費大国日本にはこれから次々と流通外資が上陸するだろうけれど(今年東京郊外に独のキャッシュ&キャリーという日本になかった業態のメトロという企業が丸紅と組んで進出するとのことだし)、いずれにしても大変かつおもしろい時代になってきたと思う。



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 ここからは、ビジネスホテルから。
 天神に宿泊しているのだけれど、0時過ぎの時間でも結構な人がいた。随分と暑くて、タクシーの運転手さんは「入梅はまだだけれど、もう同じようなものだ」と話していた。
 部屋は9階の端から2番目。他の建物にはばまれて、窓からはあまり景色は見えない。
 

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 お知らせ

 今日はイヤホンをつけたノート・パソコンで、ピチカート・ファイブ『Bossa Nova 2001』を聴きながらDaysを書いていました。「Sweet Thursday(Windows Media Playerの表記。「雨の木曜日」のこと)」の前奏はやっぱりかなり好きなのです。


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