解放区

2001年12月31日(月) 会合。

 遠くで子供たちの叫ぶ声が聞こえる。裏の公園で遊んでいる子供たちの声が。意識は次第にはっきりしてきたが、頭が重くて動く気がしない。ぼーっとした意識の中で、ひとつ深呼吸をしてみる。少しアルコールの混じったため息が体の外に抜けていった。


 気が付くと、また眠っていたようだ。感覚からすると、昼を少し回ったくらいか。子供たちの声がまだ遠くから聞こえる。もしかすると、それすらも、実は幻なのかもしれない。のろのろと布団から這い出て、ぼさぼさの頭を少し掻いてみた。さっきまで見ていた夢を少し反芻してみる。少し前までは鮮やかな風景が脳髄の中に描かれていたはずなのだが、それすらも輪郭がぼやけ、さっきまで脳の中で抱いていたはずの女の顔さえも不鮮明にしか浮かび上がらない。

 ようやくうっすらと目を開けてみる。薄暗いこの部屋は、確かに自分の住んでいる部屋に違いない。なんだか体中が溶けていくかのように重い。頭が痛い。しばらく風呂にさえ入っていないことを思い出した。そう、ここ数日は、友人との集まり以外はずっとここで寝込んでいた。今日も友人に会うにあたって、せめて髪くらいは洗っておきたい。などと考えているうちに、再び子供たちの声は遠くのほうに掻き消されて行った。


 今度目覚めたときはもう午後3時を回っていた。時間がない。しかし体は動かない。何とか服を着替えて外に出た。携帯電話に着信があった。すぐにかけ直した。



 待ち合わせ場所の喫茶店はすぐにわかった。何も脳みそを働かせずにここまでやってきたが、体調がこのままだったら少し話だけして帰って寝るつもりだった。2階に上がる。ゆっくりと全体を見渡してみるが、それらしき人影は見つけられなかった。楽しそうに若者どもが会話をしている。少し眩暈を覚えた。それから、確認するかのようにゆっくりとそこを一周した。


 不思議なことに、彼らに出会ったときから、重たい体はどこかへ吹き飛んでしまった。遠田さんはてめえの発する言葉に肩を震わして笑われ、感極まったか涙さえも見せていらした。近隣のテーブルにおられた皆さんまで笑いの中に引きずり込んでしまったのは、ひとえにてめえがハイ(灰?)だったからである。残りのお二方は静かに微笑まれておられたが、もしかすると少し引きつっておられたのかもしれない。

 カラオケに行く。皆さんはカラオケに慣れていらっしゃるのかもしれないが、自分は実は最も苦手とする雰囲気のひとつでもある。それでも気が付くと朝を迎えていた、というのは、結構楽しんだ、ということなのだろう。知らない曲の洪水の中で、思わず自分は少しだけまどろんだ。眠たくなる、というのは、満ち足りている、ということか。


 外に出る。楽しそうに前を歩く若い集団。しらふのまま、黙々と歩きつづける男。仕事帰りと思われるお姉さん。その上にさりげなく輝くネオン。道端に撒き散らされた吐瀉物。こそこそとしゃべりながら伏目がちに歩きつづける男二人組。やたらと車高の高い車はそこにはなく、ただ客待ちのタクシーが列を並べてひっそりと客を待っていた。遠くに京都ホテルの赤い光が瞬いていた。


 自分は誰なんだろう、と自問する。何者で、ここからどこへ行こうとしているのだろうか。


 翌朝、メモ話が盛り上がりを見せるときにてめえは帰路についた。この話もだんだん投げやりになってしまった。寒いのでご容赦を。


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