「なぁ。あの人、覚えてる?俺の先輩の」
以前、うちに遊びに来たことのある会社の先輩のことを、ランディが尋ねた。 ああ。まだエンピツに移行する前だが、日記にも書いたので覚えている。 自身が四十代半ば、独身のなのに、わたしたちに向かって「なんで子供作んないの?早く作った方がいいよ。子供は」と説教してくださった方だ。
「末期癌だって」
「…………!」
「最近、見かけないなと思ってたんだけど、実家に帰ったんだってさ」
たくさんいたきょうだいの中で、男の子は彼ひとりだったそうだ。 姉や妹に、女というものの恐ろしさを教えられた、と笑いながら、幼い頃の思い出話をした。 故郷を遠く離れて、独身で、長い間、ひとり暮らしをしていたせいか、なんの変哲もないカレーを喜んで食べてくれた。
そのときは余計なお世話だ、と思った「子供を早く作れ」という彼の言葉が、とてもとても悲しいものに思えた。
快癒を祈る。
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