ランディと、久々に整体に行き、ドトールでジュースを飲み、晩飯に天麩羅なんぞ買った帰り道、ちょっと珍しいものを見た。
若い男女が言い争っている。
「なんで、いつもそうやって逃げるわけ!?」
と、痴話喧嘩の常套句を口にする女の子。
「逃げてねぇよ」
と、これまた、絶対、逃げてるんだろうな、と思わせるありがちな受け答えをする男の子。
昔、好きだったバービーボーイズの歌を思わせる会話である。
周囲は、その声のする方を見た後、礼儀正しく目を逸らし、耳だけダンボにしている。 わたしとランディも、それに倣って、彼らの前を通り過ぎようとした。
すると、いきなり、女の子が、壁に追い詰めた男の子の襟を掴んだ。 あーあー、Tシャツの襟んとこが伸びそう、とか思いつつ、横目で見ると、なぜか、男の子は、笑っている。 そういや、前にも地下鉄の中でサラリーマン同士の喧嘩を見たことがあるが、喧嘩を売られてる方は笑ってたな。 あれって、恐怖の余りなのか、取り繕おうとしてるのか、それとも、ドラゴン・ボールに出てくるサイヤ人キャラのように戦闘前にわくわくしてしまうのか、謎だ。 物凄く気にはかかったが、どう見ても痴話喧嘩だし……と思いつつ、通り過ぎた後、男の子の声が聞こえた。
「たすけてー」
もはや、女の子の詰る声は悲鳴と化して、言葉を聞き取れない。
「たすけてー」
男女が逆ならともかく、だれも助けないだろうなあ、と思いつつ、自分たちも、その場を後にしたのだが……
「だれかたすけてー」
……万が一、あれが恋人同士の痴話喧嘩じゃなかったんだとしたら、まずかったかなぁ? まあ、あんな人の多いところで刃傷沙汰にはなるまい。
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