患者が、医師、病院を渡り歩くことを、『ドクターショッピング』と言うらしい。 理由は様々あるらしいが、要するに、望む対応がなされない場合に、病院を替えるらしい。
うちには、内科だけでかなりの数の診察券がある。 どれも、気に入らなくて替えたわけではない。
ランディの持病の検診をするのは、少し離れたところにある大きな病院。 普段、風邪とか、ちょっと調子が悪いときに行く一番近所の医院。 その医院が休みのときに調子が悪くなったときに行った二番目に近い病院。 土曜日の夜に調子が悪くなったときに、物凄く助かった土日も夜八時まで診療している病院。 ランディが救急車で運ばれた病院。 ランディの実家近くの病院。
全部、やむをえない事情だった。
歯科医の診察券も、かなりある。 散々、あちこち渡り歩いているので、信じて貰い難いが、わたしはべつに、歯科の治療が嫌いなのではない。 前にも書いたが、待たされすぎたり、歯科医と相性が悪かったり、腕に問題があるんじゃないかと思われたりでまさに『ドクターショッピング』をしている。 お父さまが、口腔外科医だった友人が、そのお父さまの言葉を借りて言うには、
「歯医者に必要なのは、頭より、人格と、手先の器用さである」
だそうである。
あちこち遍歴して、今かかっている歯科医は、患者に皮肉を言うこともなく、時間通りに行けば待たされ過ぎることもなく、受付が横柄なわけでもなく、治療したその日に詰め物が割れるようなこともない(しかし、こうして並べてみると、ほんとに今まで碌な歯医者に当たってないな)。 歯の状態や、治療方針や、治療費に関しても丁寧に説明してくれる。 偶然なのか、雇い主である歯科医の趣味なのか、歯科衛生士の女性二人は美人である。 ……なのだが…… 今日、クラウンを被せに行ったのだが、歯科医師が、他の患者を診ている間に、衛生士に、
「先に詰め物取っちゃいますねー」
と、言われ、口を開けた。 衛生士は、器具をアルコールランプで焙り、
「熱いですよー」
と、言って、それを、
じゅっ
……っと、歯じゃなく、唇に……
「あ、ごめんなさい。ごめんなさい」
と、言いつつ、奥歯の中の詰め物をそれで取った後、返す刀で舌に、またじゅっと……いや、二度目は、それほど熱くは無かったが…… 今、鏡で見たら、皮がむけそうになっている。
歯科医が当たりだと思ったら、今度は衛生士かい。
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