ランディと、外食に出かけた。
なにが喰いたいかとランディに尋ねられ、和食か、そうでなければ、オムレツの美味しい店が良い、と言ったら、却下された。 ランディは、どうしても、焼肉が喰いたかったようだ。 それならそれで、最初からそう言い、聞く気が無いなら最初からわたしの希望など尋ねなければ険悪な雰囲気にはならないものを…… ムカつきながら、卵料理の店の前を通りすぎようとしたとき、ランディが突然足を止めた。
「チャンプだ」
「は?」
「あれ。ボクシングの世界チャンピオンだよ。あ、負けたから、もう今はチャンプじゃないけど。うわー。本物だー」
前方に、携帯電話で話しながら歩いている男性がいた。
「握手してくんないかなー。あー。書くものとか、カメラとか、こういうときに限って持ってねー。カメラつき携帯って、こういうときいいんだろうなー」
ランディが、元世界チャンピオンだったという男性は、暫く電話を切りそうに見えなかったので、そのまま通りすぎた。 振り返っても見えないところまで来たとき、ランディは、
「すげーな。やっぱり迫力だ。自信のある男はなんか違うんだなー。滲み出てるよ」
と、いうようなことを言った。
「そう?」
さほど大柄な人でもなく、怖い顔をしているというわけでもない。 勿論、グローブもしてないし、トランクス姿でもない。 普通の格好をして、普通に電話していただけだった。 その人がボクサーだと言われて、よく見ると、確かに、がっしりしてるかも、とは思った。 が、ランディが感じた、人混みの中でもすぐに目を惹く雰囲気や、迫力は、判らなかった。
よく言われる、「オーラ」とか「カリスマ性」とかを感じるにも、それなりの目や、知識が必要なのかもしれない。
|