☆言えない罠んにも☆
モクジックス過去にススメ!未来にモドレ!
NAAAO |MAIL


2008年01月09日(水) うぇざーめーる 2



その日、展望台から東京湾を見て(彼女は、どうしてお台場が、「台場」と呼ばれるようになったのか、幕末の政情を詳しく語りながら教えてくれた。)、上映中の映画かなにかのキャンペーンでやっていた展覧会(大砲や潜水艇や日本軍の航空艇っていう、ゴツイ企画だったんだけど、ぼくと同じくらい、彼女も興味を示していた。)にいって、お昼をたべることにした。

レストランを5つくらい回って、6つ目についたエスニックレストランにはいろうと、ぼくは懇願した。
彼女が自分から、ここに行きたい!という言葉を発するまで、あと10件は回らなくてはならないように思えた。

彼女は、席について、すぐにメニューを取り、「おなかがすいた」といって、チキンとナシゴレンのプレートランチを注文した。そう、インドネシア料理の店だった。
ぼくは、ちょっと迷って、ポークチョップを注文した。
メニューが取り払われると、彼女の顔が目の前に現れた。
そういえば、向かい合って座るのは、初めてだった。

なんとなく、目が合わせづらくて、料理がきてから、ずっと皿ばかり見ていた気がする。
急に、自分の歯並びが気になった。
彼女は、いくつかの話を早口で息継ぎせずに話して、そのあと、数分間黙り続けていた。

口を開いたのはぼくだ。
「結婚式、何時から?」


ぼくは、わりと古いところがあって、仕事とか、課題とか、義理とか、そういうのは、プライベートよりも優先させてしまう。
いや、それより優先させるべきプライベートがないからなのか、
プライベートがそれほど優先されるべきものだとおもってないからなのか、
まあ、とにかく、彼女は、結婚式に遅れてはいけないと、おもったのだ、強く。

「無理して食べなくてもいいんじゃない?」

彼女は、四苦八苦していたナシゴレンをほとんど残して、ふわっと走って行ってしまった。


「ばいばーい」か。

だれもいなくなった、向かいの席を見ながら思った。
ぼくはいろんなことを、きちんと考えすぎるのかもしれない。


空港は、特別快適でもないけれど、苛立つほどの状況にも遭わなかった。
願わくば、人の数が10分の一くらいになると良い。
スタッフも含めてね。

飛行機のシートについて、酔い止めとミネラルウォータを飲むと、すぐに寝ることにした。
つく、数分前に現地の気候さえ、わかれば良い。
機内のサービスにはそれ以上期待しないようにしている。
睡眠をとるのが一番効率いい過ごしかただって思うんだ。


−−−−−
ロスアンジェルスは、晴天だった。
そして、それから毎日、空が曇ることはなかった。

ぼくは、そんな晴天を窓からみながら、ずっと仕事をしていた。
寒くもないし、暑くもない。
ローラスケートで来るピザ配達の女の子は、いつだってノースリーブだ。

だから、その日、いつもと違う色の雲が現れて、
夕立じゃない、雨が降ったときには、なにか、こう、何もせずにはいられなかったんだと思う。

Date:July,11
Title:None
To:Catherine

”雨だー”




キャサリンからの返事はすぐに来た。
3ヶ月ぶりにとは思えないくらい、シンプルなのが。


Title: Re None
From:Catharine

”あめあめー”



彼女が何をしているのかは、想定する根拠がまったくもって足りなかったけど、
梅雨明けが近づく日本の湿度が思い出されて、
ぼくは、また、ふっ、とひとり笑ってしまった。


----

つぎに、彼女にメールをおくったのは、8月。
サマーバケーションで、社員の家族を満足させるイベントを次々こなさなきゃいけない月だ。
独身にとっては面倒なだけなイベントだけど、”パパ”してるやつらには違う。

奥さんと、はしゃぎざかりの息子や娘たちを持った社員たちは、ここぞとばかりに自分の
「お父さんっぷり」を競う。
森のキャンプ場で、牧をわり、鉄板をならべ、サヴァイヴァル術を、子ども達に吹き込む。

僕は、ビールを片手に、彼らのアシストを楽しんでいた。
神経質なプログラマたちが一斉に”アメリカン・ダッド”に変わるのは可笑しい。

さすがに皆、難しい本を読むのを嫌わない人間ばかりなので、BBQくらいで失敗するはずはなかった。
味覚がどうこうは、ぼくも含めてさっぱりな奴も多いけど、
少なくとも、ボリュームやラインナップは完璧だった。
ビールの合間に、肉だけ食べていた僕が(肉以外にも、シーフードやベジタリアンメニューなど
いろいろあったんだけどね)、同僚の突き出た下っ腹を見て、この瓶でさいごにしようと決意した瞬間だった。

森の周りの空が急に、黒くなり始めた。
あとほんの数分、”アメリカン・ダッド”たちの判断が遅れたら、肉も、ぼくらも、びしょ濡れになって、
きっと、子ども達の夏休み日記に、”ワーストメモリー”と題して記録されてしまうことになったに違いない。

豪快な夕立。
森で味わうのも、ひさびさに体験する”ワイルド”なOFF。

あ。

稲妻が走った。

景気の良い雷鳴。

こういうのも、たまには楽しい。

避難し終えて、安全な場所でエキサイティングな光景を見っていうのは、夏休みの思い出にぴったりの
イベントだ。興奮を隠せないファミリーたち。

ぼくだって、エキサイティッドな気分になったよ。
そう、誰かに興奮伝えたいな、って思うくらいにね。

日本から持ってきた、ちょっと時代遅れなフォルムのケータイを取り出す。
時計以外として滅多に使われるときはないけど、今日は大いに役立ってくれる。
数文字のひらがなが、日本にむかって、とんでいった。


ーーーーーーーーーーーーーー


いつも、春風のように軽くて暖かい返信が来るとおもったら、大間違いだ。
ハッとするような雹のように冷たくて硬い欠片が刺さるときもある。
木枯らしのように世知辛い文章の日もある。


たとえばぼくが、同僚の結婚パーティで酔った勢いで送ったメールに来た返信はこうだ。


Date:Sep,21
Title:Re:のんだー
From:Catherine

”理解不能。文章につき再考を要す”

酔いが一気にさめた。
文章を見直した。
誤植はなかったが、すこし長すぎて、擬態語とひらがなが多いように感じた。
ぼくの不得意分野なのだが、文学的に見るときっと失格な文章だったのだろう。


また、こんなときもあった。
社内の歓迎会かなにかでボウリングに行ったときだ。マイナスハンディをつけて優勝したと報告したら、

”うれしそうなレポートをありがとう。苛立たしいほど自慢げなあなたの姿が浮かびましたが、顔は思い出せず
 新渡戸稲造で代用しました。”

とかえってきた。

ぼくは、新渡戸稲造を画像検索し、数日間落ち込んだ。


晴れていい気持ちだったのでビーチで昼寝をした、と書いたときはこうだ。

”わたしはPMSが酷くて起きられません。寒くて雨です。”

ぼくはデリカシーがないんだろうかと、反省した翌日、

”台風一過ーーはれーわーい”

と、メールが来た。

気遣い屋な彼女に、ますます申し訳なさがつのった。
東京の天気は世界のどこにいたってわかる。
秋の長雨は、止みそうにないね。



モクジックス過去にススメ!未来にモドレ!
NAAAO |MAIL

My追加