2012年09月15日(土) |
アール・エドレッドの場合(仮)・おまけ |
おまけ
(「ようやくたどり着いたか」) 「おかげさまでね」 霊園の前で一人の男がたたずんでいた。 「来たことがあるなら教えてくれてもよかったじゃないか」 (「それではつまらないだろう」) 「つまる、つまらないの問題?」 否。そこにいたのは一体の海霊(ワダツミ)と一体の精霊。 (「そういう問題だ」) もっともヒトの目から見れば人間の男が宙にむかってぶつぶつとつぶやいているようにしか見えない。口をとがらせるリザに帰結の精霊は諭すように応えた。 (「おまえはこの場所に来たかったのだろう? だったら自分の力でたどり着かなければ意味がないではないか」) 「そんな大袈裟なものでもないでしょ。そもそもこの大陸にたどり着くまで一体どれだけの年月を費やしたと思ってるんだ」 (「それに比べれば今回のことくらい、どうってことないではないか」) 「……まあね」 あたりには誰もいない。夕暮れの墓地にたたずむのは男一人。 「やっとここまできたよ。テティス」 目前の墓標にひざまづいて男がつぶやく。墓石にはこうかかれてあった。「テティス・ランゲージ。ここに眠る」と。 「ここにたどりついたのはつい最近なのに、墓まで作られてるとは思わなかった」 (「このあたりではちょっとした逸話になっているらしいからな。記念碑くらいあってもなんら不思議ではあるまい」) もっともここでは幽霊屋敷以外のなにものでもないがな。そう告げる精霊に苦笑して背負っていた水色の袋を地につける。取り出したのは銀色の笛。それは男が遠い昔に譲り受けたものだった。 (馬鹿の一つ覚えだな。もう少し味のあることをしてみてはどうだ?) 「ほっといてくれ」 ふてて見せた後、リザは銀色のそれに唇をあわせる。 「……これが、オレ達の新しい逢瀬だ」
真夜中にやさしい笛の音がひびく。 それはかつての少年と少女が語り合ったうたかたの夢。
過去日記
2004年09月15日(水) EGはこうして作られる・その2
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