「猫を抱いて象と泳ぐ」/小川洋子
12/26のブランチでも今年のお勧め作品に選ばれていたこの作品をちょうど読んでました。 そのときにも紹介されていたんだけど、どこかの国のあまり知られていない昔話を掘り起こしてきて、そのまま伝えてくれているような、そんな不思議な感覚に包まれた。 口が塞がった状態で生まれてきた少年アリョーヒン。ごくわずかな知り合い以外とは、チェスを通じて話をする。チェスをすれば、その人がどんな人か分かる。口がふさがっていても何の不都合もなかったのだ。
そのことも含め、この作品には限られた空間、というキーワードがたくさん出てくる。僕が解釈するとそれはそのままチェスのことを投影して、限られた空間から生まれる美しさや、もうちょっと拡大解釈すればエネルギーのようなものを伝えたかったのかもしれない。
以下は数学好きだからこその曲解ですが、前作「博士の愛した数式」というのは数学の美しさを誰もが感じられるような雰囲気であり、今作はそれをチェスに置き換えられる。もちろんストーリーの展開は違うが、チェスの美しさを誰もが感じ取ることができる。 そもそも、チェスも数学も似ている。どちらも、限られた世界での現象を考えるものという意味である。その中で自由に羽ばたけるのは思考だけなのである。数学やチェスといった無機質なものが、実は思考の先に有機的なものに変化する。それがいかに美しいか、そのことを小川洋子という人はよく知る人、あるいはうまく伝える人なのだろう。
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