Missing Link

2006年11月02日(木) Chai

 本当は『caay』と書くらしいです。いわゆるインド式ミルクティです。
 まだ学生の頃、ちょっとした誤解からインドに行く事になり、その時の事を書き出したら三晩はかかるので止めますが、情けない事に行きの飛行機の中で「早く日本に帰りたい」と既に思っていたような旅でした。

 とにかくタイムスケジュールはあってなきがごとし、予定は常に未定でコロコロ変わり、ある日、長距離移動が軽飛行機から鉄道になりました。

 そこまでの道中で、かなりエライ目にあっていたのに、一等車両と聞いて、オリエント急行を想像した自分は、かなり夢見がちな若者だったと思います。乗り込んだ自分を待っていたのは、大昔の病院の待合室なんかに置いてある、固いビニール張りの長椅子でした。

 一応もらった白いシーツはどう敷いていいか分からず、一緒にもらった毛布と一緒に自分をぐるぐる巻きにしました。一晩中揺れる電車の中ツルツルの寝台の上、自分も相当シェイクされたと思います。ようやく明るくなり、起きた時にはもう何が何だか分からない状態でした。

 そんな自分に差し出されたのがチャイでした。車内販売というとワゴンを押した女性を想像すると思いますが、この人は白い、コックさんのような格好をして全身にポットやら何やらをくくりつけて車内を歩いておりました。

 彼は少し離れた場所からこちらを見て、にかっと笑うと不思議に優雅な仕草で高々と上げたポットから、胸元の素焼きの小さな器にチャイを注ぎました。見とれている自分に、それを『いるか?』という風にこちらへ見せるので、思わず頷くと、彼はやはり、にこにこと笑いながら湯気の出ている器をくれました。

 口にしたそれはかなり甘かったのですが、疲れた身体に染み渡るような感じで、甘い物が苦手な自分にもとても美味しく感じられました。お金を払った記憶がないので、電車のサービスだったのだと思います。

 少し気分に余裕が出て、連結部分のデッキに出ると、同じようにチャイの器を持った人がいて、その人は飲み終わるとひょいっとその器を目の前の草原に投げました。驚きましたが、他の人も同じようにしているのを見て、成るほどそういうものなんだなと思いました。

 自分は素焼きの器の感触を楽しみながら、目の前に広がるどこまでも続く草原、たまに忽然と現れる孔雀を見て笑いながら、初めて旅をして来て良かったなと思いました。

 こっちに戻って、あの全身のささくれを包むような味をもう一度と、メニューで発見すると頼んでいましたが、通常の状態で飲むには、自分には甘過ぎる代物で、とてもあの感覚を再現できません。

 かと言って、もう二度とあのサバイバルをするつもりにはなれず、かのお茶の味はこのまま永遠に失われるんだな等と、格好付けて嘯く自分でありました。


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翠 [HOMEPAGE]