Mother (介護日記)
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2002年08月23日(金) |
ショートステイの勧めに・・・ |
夕方、ケアマネージャーから電話があった。 「介護保険の新しい保険証は、市役所からまだ来ていませんか?」
ヾ( ̄。 ̄;)
「昨日、訪問調査があったばかりなので、 認定会議は9月5日ぐらいになるだろうとの話しでしたが・・・」
「あら〜、昨日が訪問調査ですか? ずいぶん遅いですねぇ。 申請はずいぶん前だったでしょう?」
「8月6日です。」
「あら? もっと早くじゃなかったかしら?」
「主治医の意見書が、予定の29日にできあがらなかったので。」
「ところで、この夏休みは、どちらかにお出かけになりましたか? 前にね、行きたいなぁなんておっしゃってましたのでね。 今月26日から月末でしたらお部屋が取れるので、 お母さん、ショートにいらっしゃってはいかがですか?
お母さんにとっても、ちょっとした旅行気分になれるでしょうし。 ご家族とのお出掛けで、お母さんがいつも中心というのは、 お母さんにとっても大変でしょうから・・・」
母を泊まりに出せば、家族に自由な時間ができるかも知れないけど、 あまり気が進まないのは、家族と離れて知らない人ばかりの場所に行き、 母が不安になって混乱するのではないかということが、非常に心配なのだ。
ただでさえ、昼寝の後に夜明けと間違えたり、数分前のことがわからなくなってしまうのだ。
昼間はみんなと集っていれば良いだろう。 しかし夜になって、それぞれが部屋に戻ってしまえば、 途端に寂しくなってしまうのではないだろうか?
その施設には4人部屋が多い。 夜中に激しいセキが出ると、相手の方に迷惑なんじゃないかとか、 トイレの場所が覚えられずに、あちこち探し回るのではないかと心配だ。
しかし、ケアマネージャーは押してくる。 「それでは部屋にポータブルトイレを設置するのはどうでしょう? 3時間に1回程度、見回りもありますし、トイレの介助も付きますから。」
絹江の夏休みも終わりに近づいてきた。 来週のレフティーは2連休である。 何かを予定してとった休暇ではないが、 少し遠いところの大型SPAにでも行きたいなと話したばかりだった。
母が一緒に楽しめて、 休みのたびに運転手をさせられるレフティーにもあまり負担をかけない・・・となると 知恵のない私には、温泉ぐらいしか思いつかないのである。
長時間の移動はできない。 炎天下を数時間も連れまわすことはできない。 車椅子で行ける場所。 激しいセキがでることも考えると、映画や舞台を見るのも難しいかもしれない。 それじゃどこに行こう?・・・ 確かに、母が一緒だと行動が制限されることが多い。
ディズニーシーに行きたいと思うが、 母を連れまわすことにケアマネージャーが反対なのだ。
「それでは、1泊2日で・・・」
「あら〜。 みなさん、お出掛けになる当日は何かと忙しいですし、 準備もありますので、お出掛けの前日からお泊りになりますね〜」
「それでしたら、2泊3日で・・・」
「お帰りはデイサービスと同じ時間になりますので、3時半だと早過ぎですから、 みなさん、お出掛けから帰った翌日以降までいらっしゃいますよ。」
「そうですか。 でも母が混乱するんじゃないかと心配なので・・・」
「大丈夫ですよ、お母さんぐらいの人はたくさんいらっしゃいますから。」
「嫌がったら、お迎えに行けばいいのでしょうか?」
「いいえ、それも介護ですからね。 ご家族がせっかくお出掛けになっているのですから、それはちゃんとお預かりいたします。」
何だか、怖くなってきた。
それじゃ、本人が帰りたがっても予定の日までは帰してもらえないってことじゃん。
私はそんなことは望んでない。
しかし、私はケアマネージャーに押されるままに、 それでも日数を減らして3泊4日を受けることになった。
* * * * *
しばらくして、今度は宿泊施設(デイサービスと併設)の担当者から電話があった。 「施設利用の規定が変更になったので、新しいものを後ほどお届けします」
5時過ぎに書類を持って来たので、 ショートステイを利用するにあたって、いくつかの質問をしてみた。
夜中のセキについては・・・
「今回は初めての利用だと言うことで個室を用意しましたから、 他の方に迷惑がかかるとかと言った心配はありません。 ご自宅では、そういった時に何か対処をしていますか?」
「寝る前に水筒と飴を用意しています。」
「それでしたら、当日もそのように準備いたします。」
夜中に目が覚めて、場所が違うことに対して混乱するのでは・・・
「○○さんぐらいの方は多いですが、それほど心配ないと思いますよ。」
ショートステイから戻って、家や家族がわからなくなったら、と心配なのですが・・・
「それは・・・大丈夫だと思いますけどねぇ・・・」
玄関脇のトイレから出てきた母も、内容は理解していなかったが、そばにいた。 以前に撮ったツーショットで顔を覚えていた母は、 「あら、いらっしゃい。また遊びに来てね〜」とにこやかに微笑んだ。
「いや、今度は○○さんが泊まりに来てください」
「何しに行くの?」
「お風呂に入ったり、ゲームをしたり、みんなでお話しをして。」
「あらそう、いいわね〜」
でも私は、どこかで否定的だった。
* * * * *
私は広告の裏に「26(月)〜29(木)3泊4日でお泊りで○×△に行きます」と書いて、 母の部屋の壁に貼った。
母は、ベッドに座って何度もそれを読み、 「ねぇ〜『3泊4日でお泊りに行く』って書いてあるけど、何しに行くの?」と聞いてきた。
「みんなでご飯食べたりゲームをやったり、お話しをしたり。旅行みたいなもんだよ。」
「ふ〜ん・・・」
しばらくすると、また聞いてきた。
「ねぇ、3泊4日でお泊りだってけど、何しに行くの?」
「ご飯食べて、ゲームして」 ってか、それ以外に説明のしようがない。
レフティーともいろいろ話した。
途中で、戴き物のお菓子と麦茶を置きに行くと、母がトイレから出てきたが、 汚したワケでもないのにズロースとズボンを脱いで、オムツだけになっていた。
「なんで脱いだの? 濡れちゃったの?」
「さぁ、何だかわかんないけど、 3泊4日でお泊りだって言うんで頭が一杯になってて・・・」と、そう言った。
私はあわててズボンをはかせ、気をそらすように和菓子を与えた。
そして、先ほど書いたお泊りのメモをはがして来た。
ところが・・・
レフティーと絹江と相談していたところへ、母がやってきて、 「カレンダーに「3泊4日でお泊り」って書いてあるんだけど、何しに行くの?」
しまった、月間カレンダーにも書いちゃったんだっけ。
で、即、撤去。
別のカレンダーに、 毎週のデイサービスと、検診と、昨日のお出掛けについてだけ記入して貼り替えた。
* * * * *
私が思うに、これは立派な“拒否反応”だと思う。
例えば、これが知人との3泊4日の成田山への旅行というのであったなら、喜んでいただろう。
デイサービスの初回も、知らない人がお迎えに来て家族から離れ、 どこに連れて行かれるのか、何をするのかわからずに不安そうではあったが、 デイは『お昼を食べてお風呂に入ってゲームをする』のに相当する時間なのであったから、 帰宅した母は楽しそうだったし「また行きたい」と答えたし、 繰り返し利用することに何の抵抗もないのだが。
果たして今回も同じだろうか? 「行ってみたら楽しかった」と言うだろうか?
入院や旅行とは違って、施設に連泊するのに納得できる理由が見つからない。 母がいくら考えても、根拠たるものが見つからないので混乱している。
老人施設への入居で良く言われるのは 「私は家族に見捨てられてしまったのではないだろうか?」との不安を抱くこと。
私たちは、この狭い我が家の中で、扉と言うものを取り去っているので、 ベッドから呼べば、いつでも家族が飛んで来るし、 母が数歩歩きさえすれば、どこで誰が何をしていると言うのが即座に見える状況にある。
おそらく、母はこんな環境の中で安心しきって過ごしている。
私たちは、母を不安にさせてまでどこかに出かけたいとは思っていないのだ。
帰りたいのに帰してもらえないような環境は、母にどんな影響を与えるだろう。 どんなに施設の人が親切にしてくれても、それは家族ではない。
『個室にポータブルを置けばトイレを探すことはない』のは確かだけど、 「ここはどこ? 私はなぜここに来ているの?」という不安に対して、 どこまでフォローができるのか。
母の頭は、すでに境界線上にあるのであって、 いつ何がきっかけでガタガタっと崩れてしまうか、わからない。
一度崩れたものは、元に戻すことはできないだろう。
去年の入院中に、ボケたおばあさんと同室になったことがあった。 私はとても心配した。 その方には申し訳ないけど、 一日中一緒に過ごす母が影響を受けて同じようになってしまったらどうしよう、と。 「私は、まだここにいてもいいですか?」とか、 「2階の雨戸を閉めてきていただけますか?」とか、 レフティーの仕事が終わるまでの2時間近くいるだけで、私も非常に疲れた。 その方が昼夜を問わずに「娘に電話をかけて欲しい」とか、 意味のわからないことばかりを話しかけてくるので、母も眠れず、 数日後に部屋を変えてもらったのだった。
ショートステイに出されたことで 「見捨てられた、邪魔者扱いされた」と思い込んでしまうかも知れない。 かつてあれほどの被害妄想があった人である。 現在の安心や信用が崩れ去り、暴力的になったり悲観的になったりはしないだろうか?
我が家にとっては、 1泊2日の家族旅行よりも、3泊4日の後の母の精神状態の方が重要なのだ。
明日、電話をしてショートステイを辞めることにする。
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