Mother (介護日記)
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2001年08月24日(金) 14年前の手紙

「こんなものが出てきたよ」と笑いながらレフティーが言った。
私は仕事を終えて、母宅に到着したところ。

本日休暇だったレフティーが、母のアパートの整理をしていたら出てきたそれは、
14年前に私が母に宛てて書いた「遺書」なるものでした。

「遺書」とはこれまた大袈裟な気もするけど、
書いている本人(当時の私)は真面目なので
原文をそのままUPすることにします。
レポート用紙に7枚、かなりしつこくて長いです(^^ゞ

被害妄想が急速に進む母に、あなたの現状はこうなんですよ、と説得しようとして
必死になっている自分が笑えるし、その後別居、同居を繰り返したことを思えば
この手紙は全く効果なかったと言わざるを得ないし、その点では切なくもある。

ただ、この手紙を捨てずに母がしまって置いたことは、意味があるかも知れない。

ちなみに当時は結婚2年目。 妊娠6ヶ月で、銀行を9月末で退職したところ。
母と、最初の同居を始めて半年の時でした。

「前置胎盤」という言葉は、妊娠初期に使われる言葉としては
かなりポピュラーなようですが、初めての妊婦にとっては、
それがどれだけナーバスになる原因になったことか・・・


* * * * * * *


お母さんへ    昭和62年10月9日(金)


今から書くことは、私の遺書です。
私の命はあとどのくらいあるのか、わかりません。
この妊娠は既にご承知の通り、異常なのです。
こうしている今も出血し、2,3時間のうちに死んでしまうかも知れないのです。
時を待つしかないのです。
こんな私から、生きているうちに、お母さんにお話ししておきたいことがあります。
お願いしたい事があります。

話しをすると、上の空で聞き逃してしまったり、誤解したり、
最後まで聞いてもらえないと思ったので、こうやって文字に残します。
何度も読んでわかっていただきたいと思います。

本題に入ります。

ご自分では信じたくないかも知れませんが、
はっきり言って、あなたの言動は老人ボケの初期症状です。
怒らないで私の気持ちを理解していただきたいと思います。
私はなにも、自分の親を馬鹿にしているわけではありません。
イジワルをして追い出そうとしているわけでもない。
一緒に住むのがイヤではない。
もしそうなら、初めから「一緒に住みましょう」とは言っていないでしょう。

目的は家族の幸せのためです。

ボケの始めであるからこそ、進行を止められるかも知れないし、
私の言わんとする事をわかってもらえるはずです。
だから、敢えて言います。

お母さん、あなたのことを話せば、友達にしろ、会社の上司にしろ、
「普通でない」と言います。
私だけがそう思っているのではありません。
相談したら上司は「施設に入れなさい」と言いました。
「このままだと、あなたのほうが疲れてしまいますよ」と。
でも私は反対です。
努力して、自分のそばにおいて置きたいのです。

Kさんについて考えると、3人の子供たちはそれぞれ兄弟を頼りにして、
「自分が見なくても」という考えを持っているようです。
私には兄弟がいないのですから、お母さん、あなたが思っているほど、
あなたの育てた私は薄情ではありませんよ。
私以外に誰があなたの面倒を見てくれるのでしょうか?
Kさんが「死にたい」などと言い出して、子供たちも母親が弱ってきた事に
気付いているはずです。
でも、知らぬ顔をして、現実から逃げているではありませんか?
老人の心理や現実を掴んで理解してあげようとする努力を、
していないではありませんか?

お母さん、わかってください。
私は一緒に楽しく暮らして行きたい。
一生懸命、努力しているつもりです。

ボケる親をかかえるのは、40歳以上になってからです。
私の友達の親で、そんな人はいません。
おじいちゃん、おばあちゃんがそろそろ、という年です。
お母さんが私を生む歳が遅かったこと、ボケの始まりが早かったことで、
私はまだ20代です。

このあいだまで私は、
「まだ自分がこんなに若いのに、歳をとった母親をみなくてはならない」という、
心の負担に悩んでいました。
でも、ありがたい自分の親を諦めてもいられないので、
お母さん、あなたにも協力を願って、ボケを乗り越えたいのです。

家庭で生活している人はボケにくいと言います。
一人暮らしをしている人はボケやすいと言います。
老人ホームへ入ってからボケてしまう人がいるそうです。

この3人の家庭で暮らせば、何もいらないでしょう。
心配しなくて良いでしょう。

あなたのボケを食い止める為に、
私はいい音楽を一緒に聴くし、いい本を貸してあげる。

反抗的にならないで、話しは最後まで聞いてください。

いくらあなたが親であっても、
あなたが間違っていた時には、子供の私でも叱ります。 
きちんと謝ってください。
そして言われたことを直してください。
あなたのことを制限しているのではなく、共同生活のルールです。

人に不満を言うのなら、言われる側の立場で考えてください。
いつでも、人の身になって考えてから、言葉に出してください。

自分の老化を素直に見つめてください。
そして明るく捉えてください。
「どうせボケたのよ!」と言わないで、
「私も歳をとったのね」ぐらいに受けとめて、
できるだけ体を動かして、本を読んだり音楽を聴いたりして、
自分でも防いでください。

私が自分にできるたったひとつの親孝行と思って、一緒に生活していますが、
不思議ですか?
私が一生懸命、あなたにとって良かれと思ってすることは、不自然ですか?
ニセモノですか? 
裏がありそうですか?
私はあなたのお金を狙っていると思われているのですか?
(注:母に財産なるものはありません。最低限の生活をするための年金のみです(^_-)

レフティーが私に優しくするので、ヤキモチを焼いているのですか?
レフティーが一緒に住んでくれるのは、お金目当てですか?
「お母さん」と親しく話すのは、偽りですか?
レフティーの優しさが信じられませんか? 気持ち悪いですか?

お父さんも、S市のお兄さん(私の叔父)も亡くなって、
お母さんの身内は私たちだけです。
私さえも信じられませんか?
私がレフティーのことを言うと、かばっていると思うのですか?
お母さんだけ、仲間ハズレにしたと言うのですか?
それならなぜ、一緒に住んでいるのでしょう?

我慢しているのは、あなただけではありません。

自分の感じた事をすぐに口に出すのは、
こもってしまうよりもいいのかも知れませんが、
いつも聞いている私の気持ちを考えてくれたことがありますか?

楽しく暮らしましょうよ。
ケンカするのは辞めましょう。
怒るのは辞めましょう。
共同生活の為のルールは、みんなで学びましょう。
人を疑うのは辞めましょう。

私は何度も泣きました。
あなたが何気なく言った言葉に傷ついて泣きました。
自分が若過ぎることに泣きました。

でも寛い心を持って、自分自身が学び、
あなたをすべての不安から守ってあげようと思いました。
自分のおなかをさすりながら、自分と赤ちゃんの命を守り、
平和な家庭を築いて行きたいのです。

生まれ来る、あなたの孫の為にも、
私が悩んで熱を出したりする事のないように、お母さん、自分自身に気がついて。

人生80年。あと20年あります。
あと20年すると、私が無事に子供を産むとすれば、20歳。
あなたの孫の成人式が見られるのです。
楽しみではありませんか?

お母さん、あなたは人生の先輩として、
いつ破裂するかわからないおなかを抱えて不安な私をやさしく支えてください。
ご自身、身体と心の健康に気をつけて、是非長生きしてください。

ここに長く書き留めたことは、初めに書いた通り、3人の幸せの為に、
ご自身の老化を自覚して食い止めるべく努力して行きましょう、ということが
ねらいです。

私はあなたのたったひとりの娘です。
あなたはひとりになることはない。
3人で一緒に暮らしましょう。

お母さん、あなたがこの手紙を読んで怒ってしまったかどうか、私にはわかりません。
でも、親が子を想うように、子もまた親を大事に想っているのです。
素直に受けとめてくださいますか?
苦労して育てたあなたですから、どうぞ、私と幸せを掴みましょう。

これだけ述べても、私に腹を立てて私が信じられないとするならば、
私は悲しい。 大変悲しい。
私はあなたより先に死んでしまうかも知れない。
あなたとの間で揉めて、ずいぶん悩んで、
死んでしまいたいと思ったこともあったけど、今は時に任せています。

ただ、お母さんとの間でしこりが取れないままで死んでしまうのはイヤだから、
あなたの老化について話しておきたかった。
それはあなただけの問題でなく、生きていれば私にも可能性があるのだから・・・


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